Thursday, May 14, 2009

小沢代表辞任とネガティブキャンペーン

▼小沢一郎氏が、民主党代表を辞任した。小沢代表が公設秘書の起訴後も続投していることに「納得できない」人が71%に達した(読売新聞社の世論調査)というのでは致し方ないのだろう。しかし数字の信憑性はともかく、逮捕理由の「政治資金報告書の虚偽記載」がどうゆうものか、また「推定無罪」の段階であることを、その71%の人たちはどの程度分かっているだろうか。
▼ここにあるのは、“なにやらお上に起訴されたんだから、きっと悪い事をしているに違いない”という「大衆感覚」だろう。大手メディアですら“自民党以来の金権体質までは変えられず、最後に足をすくわれた”といった論調なのだから無理もない。
▼感じるのは陰謀説や「国策捜査」よりも米国の大統領選などでよく使われるネガティブキャンペーンとの類似だ。対立候補を叩くためあらゆるスキャンダルを探し出し、場合によってはありもしないことで誹謗・中傷する運動だ。
▼2000年の米大統領共和党候補予備選では、「マケインは黒人女性との間に婚外子を設けた(実際はバングララディッシュから養子)」などのデマが流された。清廉潔白な人柄で知られるマケイン候補は、あまりの卑劣なやり方に戦意消失、ブッシュ候補に敗北した。04年の大統領選挙でも、ベトナム軍歴をめぐるネガティブキャンペーンでケリー候補は支持率を落とした。
▼あまりの汚さに前回の大統領選では減ったが、選挙が人気取りであり投票である以上、こうしたことはついて回る。政権交代を目指すというが、本当に政権を取るつもりなら日本の民主党もこうしたことを学ぶ必要があるだろう。
▼それにしてもである。米国のネガティブキャンペーンでも検察特捜部といった国家権力が使われることはない。マスメディアは、何故この時期に秘書を逮捕・起訴したのかという検察への追及を怠った。国民はこのことにもっと疑問を持つべきだ。フェア(公平)でなければ民主主義ではない。

Thursday, April 30, 2009

パンデミックと過剰反応

▼現在、世界中を揺るがしている豚インフルエンザ。世界保健機関(WHO)が警戒レベルを「フェーズ4」から世界的大流行(パンデミック)の一歩手前である「フェーズ5」に引き上げた。
▼歴史的なパンデミックとしては、14世紀にヨーロッパで流行したペスト、19世紀から20世紀にかけ7回の大流行を起こしたコレラなどがある。1918年に発生したスペインかぜは感染者6億人、死者は4千万人を超えたといわれる。以後1957年のアジアかぜ、68年の香港かぜ、77年のソ連かぜと流行してきた。
▼オバマ大統領は26日、異例とも言える「公衆衛生に関する緊急事態宣言」を全米に発令、緊急対策費として議会に15億ドルの支出を要請した。ブッシュ前政権が2005年、ハリケーン「カトリーナ」による災害への対処を誤り、国民の信頼を一気に失ったことを教訓にしているのだろう。
▼しかし、焦りは裏目に出ることもある。1976年、ニュージャージー州の陸軍基地フォート・ディクスで死亡した兵士(19歳)の検死で、豚インフルエンザの人間への感染が確認された。基地の500人以上が感染しており、事態を重く見たフォード大統領(当時)が全国的な予防接種プログラムを開始し約4千万人が受けたとされるが、副作用で30人が死亡する一方、豚インフルエンザによる死者は結局その兵士一人だけで終わった。これは次期大統領選でカーター候補に破れる一因になったと言われる。
▼29日、テキサス州で1歳11カ月の幼児が豚インフルエンザで死亡した。今回の豚インフルエンザは、より重症を引き起こす鳥インフルエンザと融合した新型とみられ、不安は募るが、ナポリターノ国土安全保障長官は「国内で年間3万5千人が季節性のインフルエンザに関連して死亡しているのも事実」と過剰反応しないよう呼び掛けている。

Wednesday, April 15, 2009

核兵器を使った国の道義的責任

▼オバマ米大統領が5日、チェコの首都プラハで、国家の安全保障に占める核兵器の役割を減らし、「核兵器のない世界に向けた具体的な措置を取る」と宣言、他の核保有国にも同調を求めた。
▼大統領は「核兵器を使った世界で唯一の核大国」として「道義的責任がある」と言明、広島、長崎と具体的には述べなかったものの、これまでの米国からすれば画期的な演説だった。
▼日本やドイツは歓迎する意向を表明。日本にとっては、唯一の被爆国として全面的核廃絶を求める国連決議を毎年提案する一方で、米国の「核の傘」に守られるという建前と本音の矛盾が解消することになる。
▼だが核保有国の反応は鈍く、フランスは「核抑止力に関する政策は仏の主権の範囲」(サルコジ大統領)とし、内部文書によれば「米の海外でのイメージアップ戦略に過ぎない」と切り捨てている。
▼ロシアや中国は公式見解を出していないが、ロシアの軍事評論家のパーベル・フェリゲンガウエル氏は「プロパガンダ的な演説」で「通常兵器の近代化が遅れるロシアにとって軍事大国の地位を維持するためにも核兵器の放棄は受け入れられない。一言で言えば不快」、中国共産党機関紙「人民日報」が発行する「環球時報」は「激情演説『これぞ空想』と評論家」との見出しで報じた。
▼2年前、ニクソン、フォード政権のキッシンジャー元国務長官、レーガン政権のシュルツ元国務長官、クリントン政権のペリー元国防長官、ナン元上院軍事委員長が4人連名で「核兵器のない世界」の実現を呼びかけた。“冷戦の戦士たち”は冷戦末期に一度は米ソ首脳は核廃絶で一致したが保有国の反対で流れたこと、現在は保有国が増え、核拡散、テロリストに渡る可能性の高さなどから「偶発的核戦争」勃発の可能性は冷戦期以上に高いため、米国が先頭となって核をなくすべきと提言していた。
▼イランや北朝鮮の核開発問題も国際社会が一致して核廃絶に向かえば、自ずと解決へ向かうだろう。「プロパガンダ」で終わらせないで欲しいものだ。

Wednesday, April 01, 2009

「人工衛星」でも緊張する東アジア

▼自民党の菅義偉選対副委員長は28日、「米国から北朝鮮のミサイルの情報をもらっている。日米安全保障条約の信頼感の下で国民の生命と財産を守るのは当たり前だ。小沢氏でこの国を守れるのか」と語った。小沢民主党代表が在日米軍削減に言及したことについて語ったものだ。
▼北朝鮮が通告してきた計画によれば4月4〜8日に衛星を発射するという。日本ではミサイル落下に備え政府が決定した「破壊措置命令」を受け、海上自衛隊のイージス艦3隻が28日、出港。うち2隻は海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を装備。陸上でも自衛隊が地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を陸上自衛隊秋田(秋田市)、岩手(岩手県滝沢村)両駐屯地に配備した。
▼米国は、キーティング米太平洋軍司令官が24日、「米国土と(日韓)同盟国を守る用意がある」と改めて表明、第7艦隊のイージス艦5隻を展開している。韓国初のイージス艦「世宗(セジョン)大王」も含め、少なくとも9隻のイージス艦が日本海を中心に警戒にあたる。
▼まるで準戦時下かのような様相だが、ミサイル防衛(MD)を巡っては政府高官が23日、「鉄砲を撃ってきたのを鉄砲で撃っても当たらない。(ミサイルを)撃ってきたら当たるわけがない」と語った。
▼専守防衛を旨とする平和国家日本としては、ミサイル防衛は国民に受け入れやすいのかも知れない。だがその有効性は疑問とされている上に、膨大な予算が必要といわれる。軍需産業が恒久的に儲かり続けるとされた米戦略防衛構想(通称スターウォーズ計画)の再来と訝しがる声もある。
▼北朝鮮の核問題をめぐる6者協議の日米韓首席代表が27日、ワシントンで協議し、北朝鮮が人工衛星と主張しても、ミサイルの発射だとして国連安全保障理事会決議の違反とみなすと再確認した。
▼スターウォーズ計画は冷戦終結と共に消滅した。北朝鮮問題が外交解決すればミサイル防衛計画は後退するのか、それとも在日米軍削減が日程に登るのだろうか。

Saturday, March 14, 2009

「国策捜査」か「検察ファッショ」か

▼西松建設の違法献金問題で、民主党の小沢代表の事務所が東京地検特捜部に家宅捜査され、公設第1秘書の大久保隆規が逮捕された。政治資金規正法の厳格化を進め、自ら透明化してきた小沢代表だっただけに、皮肉である。共同通信社が7、8両日に実施した全国電話世論調査で、「小沢氏は代表を辞めた方がよい」との回答が61・1%と続投支持の28・9%を上回った。
▼だが、小沢代表が言う通り、この種の捜査では今まで強制捜査や逮捕が行なわれたことは一度もない。献金者の違法・脱法行為があった場合、献金を返し報告書の記載を修正すれば済んでいた。小沢は議員辞職しろとの声が自民党から出ないのは、そんなことになれば大半の自民党員が辞めなくてはならなくなるからだ。
▼西松の偽装献金と見られる4億8千万円のうち小沢氏へは2億円とされるが、残りの2億8万円は森喜朗、二階俊博、尾身幸次、藤井孝男らほとんどが自民党の議員への献金だ。検察は「時効が近かった」「額が大きかった」というが、それで納得する人はいまい。半年以内には総理大臣になるのはほぼ確実だった小沢代表に対し何故この時期か。「国策捜査」(民主党幹部)、「検察ファッショ」(亀井静香国民新党代表)という声が聞かれたのは無理もない。
▼漆間巌官房副長官(元警察庁長官)が「事件が自民党議員に波及しない」と述べたことが火に油を注いだ。自民と検察が結託した小沢潰しという疑惑だ。検察は世論の動きに反応してか、二階経済産業相ら自民党議員にも捜査を進め始めた。
▼小沢代表自らも語っているが、企業献金だという認識があったなら合法的に受け取れる政党支部を使えばいい話である。そもそも贈収賄を成立させるような権限が小沢氏とはいえ野党の政治家にあるのか。政治資金規正法違反しか問えないのであれば「検察の敗北」と批判にさらされるのは検察は分かっているはずだ。やはり誰かが検察をそそのかしたのだろうか。

Sunday, March 01, 2009

米国は日本の政権交代を織り込み済み?

▼クリントン国務長官は就任後初の訪問国に日本を選び、訪日した。このことを日本政府・外務省は「オバマ政権の日米同盟重視の姿勢が明らかになった」とした。また、オバマ政権は発足後初の外国要人として麻生首相をホワイトハウスに招いた。これも日米同盟重視の姿勢ということになるのだろう。
▼しかし、23日夜にワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着した首相を出迎えたのはボルーダ国務省儀典長代行だった。24日は大統領の議会演説とも重なったこともあるだろうが、両首脳による会談後の共同記者会見なども見送られ、大統領主催の会食もなかった。
▼クリントン長官は訪日中、小沢民主党代表に会ったが、これは長官が希望していたと言われている。国務長官が野党党首と会談するのは極めて珍しいことだ。
▼日米首脳会談について与党は、世界的経済危機への対応で合意したことなどを歓迎した。細田幹事長は「大変意義があった」と評価、北朝鮮の拉致、核、ミサイル問題の包括的解決に関し「大統領も十分な認識を持っている」と強調した。
▼だが、民主党の小沢代表は「国民の信頼を失っている首相に、有効な外交交渉ができるわけがない」と断言。鳩山幹事長は「外国の首相として最も早く招かれたことに喜びすぎると、米国追随外交が始まる」と述べた。
▼経済危機を乗り切るために米国は大量の国債を発行せざるを得ず、それを引き受けてくれるのは日本と中国しかない。これに限らず日本との協力体制は不可欠には違いないが、麻生政権を支えているというイメージを避けているのは明白だ。日本の政権交代を織り込んで対応していると見て間違いない。
▼石破農水相すら「早く民意を問うべきだ」と述べている。支持率9・7%(日本テレビ調査)まで記録した麻生政権はいつまで続くのか。

Thursday, February 26, 2009

政府紙幣という「打ち出の小槌」

▼オーストラリアで昨年末にスロットマシンに記録的な金額がつぎ込まれたことがこのほど判明した。同国政府は景気刺激策としてクリスマス前に年金受給者や低所得家庭など一時給付金を配ったが、カジノを潤しただけという批判が巻き起こった。
▼支給したのは1人当たり1000〜1400豪ドル(約6万〜8万3千円)。日本では一人1万2千円の定額給付金が決まったものの、どの程度経済効果があるのか疑問視されている。
▼もっと大規模にお金をばらまかねば景気浮揚策にはならないという声は強い。だが、財源はどうするのか。これ以上赤字国債を増やすわけにはいかない。
▼そこで注目を浴びているのが「政府紙幣」だ。硬貨は政府が発行しているが高額紙幣は日銀が発行している。これを政府が日銀とは別に景気対策の財源としての政府紙幣を発行しようというわけだ。
▼日銀の通貨供給では、例えば国債を購入する代金として日銀券を発行すると購入した国債の金利は、経費差し引いて最終的に政府に納付金として納められる。これが通貨発行益だ。しかし政府紙幣の場合は、発行額を政府の負債とする必要がないから、発行経費を差し引いた全額が政府の発行益となる。それを景気対策に活用しようというわけだ。
▼国債を発行せずに財政を賄えて資金供給量を増やせるというまさに「打ち出の小槌」。発行しすぎればハイパーインフレを起こす可能性があるが、デフレスパイラルに陥っている今の日本に心配は無用、むしろ需給ギャップを埋めることが求められていると、提唱者の一人、元財務官僚の高橋洋一東洋大教授(財政学)はその額、25兆円発行を提言している。
▼10年以上前から経済学者の丹羽春喜氏が提言し、ノーベル賞受賞の米経済学者スティグリッツ・コロンビア大教授も勧めているいる政府紙幣発行だが、政府は「取るに足らない話だ」(与謝野馨経済財政担当相)と応じる気配はない。

Saturday, January 31, 2009

オバマ就任演説は肩すかしか?

▼オバマ新大統領の就任式とパレードは大盛況だったが、就任演説にはちょっと肩すかしを食らった人も多かったようだ。「イスエ・ウィ・キャン」などはなく、これまでの熱狂をいさめるような印象を受けた人も多いだろう。
▼選挙戦における演説はアジテーションであり、政権を取った今、急速に現実主義化、保守化したという声さえ聞かれる。だが、演説を注意深く聞くと、オバマ大統領が新しい思考を持って、米国を導こうとしていることが読み取れる。
▼例えば経済政策。大統領は、ケインズ主義と新自由主義の不毛な対立を超えようとしていることが読み取れる。「政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、機能しているかどうかだ」と語り、生産性を高めない安易なケインズ主義=バラマキの財政出動を批判している。
▼一方で、「市場が正しいか悪いかは問題ではない」「富を生み出し、自由を拡大する市場の力は比肩するものがない」とするが、「今回の金融危機は、注意深い監視がなければ、市場は制御不能になり、豊かな者のみを優遇する国は長く繁栄することはできないことを気付かせた」と行き過ぎた新自由主義を牽制している。
▼さらに、新しい国家観ともいうべき、未来の社会を見通した部分がある。「私たち米国人一人ひとりが、自分自身や国家や世界に義務を負っていることを認識し、こうした義務を嫌々ではなく、喜んで受け入れること」の部分だ。
▼自由な社会を求めるなら、どうしても政府がすべてを解決していくことは無理になっていく。それを求めることは全体主義的、権威主義的国家となり個人の自由と多様性を奪って行くことになる。自由で豊かな社会のために、古くからあるいわゆる「スモール・デシジョン」を進め、市民自身で決定していく重要性を説いているのだ。
▼一見、地味とも思えるオバマ新大統領の演説には、古くて新しい「市民社会」へのアプローチがはっきりと述べられていた。

Tuesday, January 13, 2009

オバマ次期大統領に降りかかる国際的な危機

▼またしても中東が火を吹いた。イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザのハマスへ空爆を開始、地上軍も投入し、女性や子どもなど民間人を多く含むパレスチナ人の死者は600人を超えた。イスラエルにも死者が出ている。国連などによる停戦調停は米国の拒否により芳しくない。
▼発端となったのはハマスとの停戦合意の期限切れで、ハマスが先にロケット弾を飛ばしたのは間違いない。しかしイスラエルが強硬策に出たのは、選挙を控えた与野党の人気取り合戦という面がある。果たして戦火は広がるのか。
▼昨年10月、パウエル元国務長官は「オバマ就任翌日の1月21日か22日に、危機が起きる。それがどんなものか、今はわからない」とテレビで唐突に述べ、同時期にはバイデン次期副大統領も「就任後半年以内に国際的な危機が発生し、オバマはジョン・ケネディのように試練に立たされる」と発言した。ケネディの試練とは1962年のキューバ危機を指す。
▼試練とは中東大戦争に繋がることなのか。ニューヨーク・タイムズは10日、イスラエルが昨年、核兵器開発阻止のためイラン空爆を計画、米国に軍事支援を要請したがブッシュ大統領が拒否したと報じた。
▼アルカイダのナンバー2、ザワヒリ容疑者は6日、イスラエル、米国を批判する声明を発表。アルカイダ系武装組織「イラク・イスラム国」の指導者アブオマル・バグダディ師も10日、声明を発表し「世界中のパレスチナ人は軍事的技量を用いて、あらゆるユダヤ人、米国人の権益を標的として(ガザを)支持せよ」と述べ、テロ活動を呼び掛けた。
▼金融危機、ビッグスリー救済、世界的不況、イラク、アフガン、米ロ新冷戦などブッシュ政権が残した負の遺産はあまりにも大きく、イラン、パレスチナ、北朝鮮問題なども未解決のままだ。困難に打ち勝ち、オバマ次期大統領が新しい時代を切り開くことを期待したい。

Tuesday, January 06, 2009

資本主義は終わるのか?

▼イランのアフマディネジャド大統領は現下の世界的金融危機を「資本主義の終わりの始まりだ」と指摘した。19世紀中頃にカール・マルクスが資本主義の崩壊を予言して以来、大きな不況が来るたびに資本主義の危機が叫ばれた。
▼最近では97年のアジア通貨危機である。しかし世界経済はその後、歴史上前例のない経済成長を遂げている。大恐慌以来最悪の金融危機といわれるが、諸悪の根源は今回、アメリカ型資本主義だろう。
▼アメリカ型資本主義とは新自由主義経済のことだ。1970年代頃まではほとんどの先進国が国家による富の再分配を中心とした「大きな政府」や「福祉国家」だった。だがオイルショックなどで慢性的な不況と財政赤字が拡大、特に米国では不況とインフレが同時進行し失業者が増大した。
▼そこで米国は80年代に新自由主義を採用、同時にいわば製造業を捨てて金融資本主義で国を立て直した。新自由主義の真逆ともいうべきソ連共産主義が91年に崩壊する一方で、90年代の米国は10年に渡り景気拡大が続いた。
▼バルブ崩壊以降、経済停滞に苦しみ、少子高齢化、資源もない日本は米国の要請もあり金融業の規制緩和や郵政民営化など新自由主義を本格的に取り入れ始めた。「一億総中流」「世界で唯一成功した社会主義」とまで言われた日本は一気に格差社会となった。
▼今になって市場主義や規制緩和は少し間違っていましたといわれても我々庶民はとまどうばかりだが、自国経済を守るためにと戦前のようなブロック経済に戻るわけにもいくまい。
▼戦前のブロック経済では行き詰まった国が他国へ侵略し、結局は世界大戦を招いた。グローバル資本主義を非難する前に、まずは行き過ぎた金融資本主義(=カジノ経済)の制限や自由市場のルール作りだろう。
▼今年は丑年。経済政策は大胆かつ急いだ方がいいが、庶民の方としては、あせらず堅実にやれば結果はついてくると信じたい。(武)

Saturday, December 13, 2008

チーム・オブ・ライバルズ

▼オバマ氏が勝利した米大統領選についてニューヨーク・タイムズの有名コラムニスト、トマス・フリードマンは「1863年にペンシルベニア州ゲティズバーグの戦いで大体のケリのついた南北戦争は145年後に同じ州の投票箱で完全に終了した」と書いた。
▼ブルーステート(民主党)とレッドステート(共和党)など、米国はまだ南北戦争の続きをやっているかのような対立の様相を示していたが、「国民融和」を掲げるオバマ氏の勝利で決着がついたというわけだ。
▼だが、8年にわたるブッシュ政権の負の遺産ともいうべきイラク戦争、金融危機、世界同時不況など難題が山積みである。
▼オバマ氏は選挙期間中から「民主党や無党派層、共和党を含む組閣人事を行うつもり」と言明していた。3日、商務長官にニューメキシコ州のビル・リチャードソン知事を指名。これで、副大統領となるバイデン、国務長官に指名したヒラリー・クリントン上院議員と合わせ指名争いのライバルだった3人を政権に引き入れた。
▼オバマ氏はリンカーン第16代大統領を大変尊敬しており、愛読書のひとつに歴史学者ドリス・グッドウィンによるリンカーンの評伝『政敵が集まった政権(Team of Rivals)』がある。
▼大統領となったリンカーンは、予備選のライバルだった4人をそっくり主要閣僚(国務、財務、司法、陸軍長官)に起用する奇手を用いて、南北戦争という未曾有の国難を切り抜けたのである。
▼オバマ氏はこの「チーム・オブ・ライバルズ」に倣ったようだ。またゲーツ国防長官を留任させるなどオールスター布陣に閣内対立の懸念もあるが、「今は、世界で指導的立場にある米国にとり、21世紀の諸課題に立ち向かうための新たな夜明けの時期にある」と意に介さない。
▼ともすればイエスマンで固めたがる政権や組織は一度参考にするといいかも知れない。(武)

Tuesday, December 02, 2008

元厚生次官宅襲撃事件と裁判員制度

▼「おれがクビになったのは社会が悪いからだ。この国を動かしているのは官僚だ。官僚を何とかしてやろうと、職を失ったころ思った」
▼元厚生次官宅襲撃事件(4面に関連記事)で出頭した小泉毅容疑者(46)の弁である。34年前の「保健所に殺された犬の仇討ち」と主張するなど不可解な部分はいまだ多いが、不遇をかこった自分の社会に対する恨みからであることは間違いないだろう。
▼元厚生次官の次は文部次官が狙われるとインターネットで噂が広がった。29日、ブログに「文部科学省の局長らを一週間以内に順次、自宅で刺殺する」などと書き込んだとして、東京都に住む無職前田記宏容疑者(25)が脅迫容疑で逮捕された。
▼前田容疑者は東大卒業後、職がなく「理想を持って勉強してきたが、教科書の内容と違う現実があるのを知り文科省に詐欺をされたと感じた」などと供述しているという。
▼6月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件(7人死亡、10人負傷)の加藤智大容疑者(25)は「勤務先のリストラ計画や処遇に不満があった。世の中が嫌になった。誰でもよかった」と供述した。
▼これらに共通するのは、社会や体制(官僚)に対する社会的脱落者の恨みだ。社会はこれにどう向き合えばいいのか。
▼そんな折、日本で来年5月より裁判員制度が始まる。最高裁は28日、各地裁の裁判員候補者名簿に載ったことを知らせる通知書を全国の約29万5千人に発送した。
▼有権者から無作為に選ばれた原則6人がプロの裁判官3人と審理するが、対象は殺人、強盗致傷など最高刑が死刑、無期懲役などの重大事件だけである。
▼今の日本の市民社会を否定する「テロ」を、これからは一般市民が裁くことになる。

Thursday, November 13, 2008

南北戦争に終止符か

▼これほどまでに興奮を呼んで勝利した大統領候補はいただろうか。オバマ候補の勝利を祝福する著名人の声を紹介しよう。
▼政界からは、「昨日は紛れもなく非常に大きな前進だ。アフリカ系米国人として、特に誇りに思う」(ライス米国務長官)。破れたもののマケイン候補の弁は清々しかった。「米国は常に、努力する人に機会を与える国だ」。
▼オバマ支持者が多い映画界からは「今ほど自分の国を誇りに思ったことはないし、米国人であることを誇りに思う」(レオナルド・ディカプリオ)、「喜びで涙が止まらない。深い失望の時代に、希望がよみがえった」(マイケル・ムーア監督)。なお「セックス・アンド・ザ・シティ」主演のサラ・ジェシカ・パーカーはDCで選挙活動をボランティアで手伝ったそうだ。
▼音楽界も多い。敢えて黒人を外して二人。「歴史的な夜を共有出来て幸せです」(マドンナ)、「今まで公に選挙に関与したことはないが、オバマ氏という人間に鼓舞させられた」(ジャスティン・ティンバーレイク)。
▼テレビ界では「米国が正しいことをしたと思う。人々の意識に大きな変化が起こった」(オプラ・ウィンフリー)。スポーツ界からは、「(亡くなった)父はずっと、有色人種の大統領を夢見ていた」(タイガー・ウッズ)。
▼友好国は割愛する。宿敵イランは「あなたが国民の真の利益と正義を優先させることにより、名声を得ることを希望する」(アハマディネジャド大統領)。変わったところでは「イスラムの教えを共に信じよう」(イラクのアルカイダ系グループ「イラク・イスラム国」)。
▼「オバマ氏の勝利はケニアにとっての勝利でもある」と言ったのはオバマ氏の父親の故郷ケニアのキバキ大統領。6日を国民の祝日にしてしまった。
▼日本人もあげておこう。「ブッシュさんと違って環境問題にも熱心だし、頑張って欲しい」(選挙当日ニューヨークにいた女優の藤原紀香)。

Sunday, November 02, 2008

米国で暴動が起きる?

▼あまり表立って報道されていないようだが、10月1日より、州兵ではなく米陸軍の実戦部隊が米国内に展開されることとなった。名目はテロ対策だが、陸軍は市民が起こすかも知れない暴動の鎮圧訓練をするという。
▼米国史上初の黒人大統領が誕生するかも知れない大統領選を控え、全米各地で不穏な動きが広まっているのは事実だ。
▼ノースカロライナ州の大学のキャンパスに20日、頭を撃たれた黒い子グマの死骸が放置されていた。子グマにはオバマ氏のポスターが添えられた。オレゴン州の大学では、オバマ氏に似せた段ボール製の等身大人形が縛り首の状態で木にぶら下げられた。テネシー州では、銃不法所持などの疑いで逮捕された白人の若者二人が、オバマ氏の暗殺を計画していたことが27日、明らかになった。
▼一方、24日には、共和党のマケイン候補陣営の女性運動員(20)が、オバマ候補の支持者とみられる黒人男性に暴力をふるわれ、金を奪われたなどと虚偽の通報をする事件が起きた。
▼オバマ氏優位のまま大統領選を迎えるが、それだけにもしオバマ氏が破れれば黒人暴動の可能性も取沙汰される。オバマ氏が当選してもしなくても何かが起きる可能性があると、治安当局は警戒を強めているという。
▼これだけでない。大恐慌以来ともいわれる金融危機の問題だ。こちらの方がより深刻かも知れない。JPモルガン・チェース銀行の全米各地の支店や事業所には、白い粉入りを含む30通を超す脅迫状が送り付けられた。
▼ウォール街や大企業のエリートたちを救うために何故、庶民のなけなしの税金が使われなければならないのか、不満を募らせる者は少なくはないはずだ。
▼不況はすでに始まっている。貧困、失業、差別—。連邦政府への憎しみが渦巻き、武装したネオナチやミリシア(民兵)も多数存在する米国。多様な米国民をまとめ上げ希望の持てる社会にすることが次期大統領に求められている。(武)

Sunday, October 19, 2008

金融資本主義の終焉か 

▼東京証券取引所一部の株式時価総額は、3日から10日までの一週間で約66兆円が消えた。欧米やアジア、新興国の株価も軒並み大幅下落、実体経済を脅かし、世界同時不況の様相が鮮明になった。
▼この1年で世界各地の株式市場で消えたお金は時価総額にしておよそ21兆ドル(2200兆円)以上。07年の世界全体のGDP(国内総生産)約54兆ドル(約5800兆円)の40%に匹敵する。一日1ドル以下で生活している10億人も入れた世界人口66億人で割ると、一人当たり約3300ドル(約35万円)を失ったことになる。
▼米国は金融安定化策による7千億ドル(約75兆円)の公的資金負担を決めた。米国一人当たり2300ドル、一世帯当たり6千ドルの税負担になるが、救済される米大手企業500社のCEO(最高経営責任者)の平均報酬は07年だけでも1280万ドル(約13億7千万円)、金融危機のきっかけをつくった米証券大手5社の経営者の過去5年間の報酬は計30億ドル(約3200億円)だ。
▼映画監督のマイケル・ムーア氏によれば、米富裕層上位400人の資産が、1億5千万人分の資産の半分に相当しており、救済経費は富裕者に負担させろと主張している。
▼米国がモノ作りを捨て、金融を国家戦略とした80年代以降、ドルの印刷機はフル回転し、過剰流動性が世界中で定着した。各国に一時の繁栄をもたらしたもののバブルはすべて崩壊した。
▼現在、世界の株式市場の規模は約7200兆円、債券市場が約5500兆円、そしてデリバティブの総額は約5京円である。実体経済(GDP)の10倍、決済に必要な金額の100倍ものお金が動いている。
▼お金はしばしば血液にたとえられる。血液の流れがよければ経済活動は活発になる。しかし体(実体経済)あっての血液(お金)なのだ。私たちは実体経済無視どころか、それを破壊する金融資本主義(=マネーゲーム)の終焉に立ち会っているのかも知れない。

Tuesday, September 30, 2008

アメリカ後の世界

▼現下の金融危機について、多くの専門家が「世界大恐慌以降最大の危機」とまで語っている。ドルの一極支配体制の終焉や米政府の財政破綻まで取り沙汰されている。加えてイラク戦争の泥沼化、イラン問題、米ロの確執といった不安定要素がうごめいている。唯一の超大国の没落を指摘する声は多い。
▼米国はどうなっていくのか。これに答えたものとして、「ニューズウィーク」国際版の編集長であるファリード・ザカリア氏が”The Post-American World”(アメリカ後の世界)という本を今春出している(徳間書店より邦訳予定)。
▼同氏は、米国の没落ではなく、他の国が台頭していると認識すべきで、「アメリカ後の世界」は「かつてない平和と繁栄ムードに満ちた国際社会」になると言う。実際、80年代以降、戦争は減少し組織的暴力は50年代以降で最低レベル、世界人口の8割の国々で貧困が減少しているという。
▼にもかかわらず何故、人は現在を恐ろしい時代だと感じるのか。それは情報革命で情報量が爆発的に増大したこどが大きいと言う。中国やロシアがアメリカに敵対姿勢を取ったところで、その脅威の程度は知れている、BRICS(ブリクス=ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興国は、過去の大国(米英仏独日など)に比べれば穏健であり、既存の国際秩序の中で豊かさをもとめようとしていると指摘する。イスラム原理主義も影響力を増してはおらず、冷静に対応すべきと主張する。
▼米国が影響力を行使できる範囲は狭まるが、米国の強さの源泉は移民であり、内向きになってはいけない。国際社会のプレイヤーが増えて多様化していることへの新しい国際協調の枠組みが必要で、米国が世界の先導役であり続けるなら、ルールの順守が欠かせない。そうすれば21世紀は再び「アメリカの世紀」となるというものだ。
▼世界の多極化を肯定的に捉えたものだが、イラン侵攻、米ロ冷戦など、力に頼った方法で米国の優位を保とうとする勢力もあるのではなかろうか。

Sunday, September 14, 2008

いつまで経っても暫定政権?

▼洞爺湖サミットに参加したブッシュ米大統領は、よもや福田首相が自分より先に辞めるとは思いもしなかっただろう。内閣改造をしておいて、いきなりの辞任である。
▼前の安倍首相に続き、福田首相も1年ほどで政権を放り投げた。国のトップである首相の立場は、確かに本人でなければ分からないプレッシャーもあるだろうが、無責任のそしりは免れない。二世議員の脆弱さを指摘する声も多い。
▼もっとも支持率がどんなに低迷しても、任期いっぱいは辞めることはない米大統領に比べれば、退陣が簡単に出来る日本の議院内閣制は、刷新や出直しがやりやすいというメリットもある。
▼しかしここはやはり、解散し民意を問うべきだろう。だが、いま選挙をしては惨敗すると見込み、自民・公明与党はずるずると無理な政権を続けている。
▼ポスト福田の自民党総裁選には最有力の麻生太郎幹事長(67)はじめ5人も立候補した。与謝野馨経済財政担当相(70)といった重鎮や、石破茂前防衛相(51)、石原伸晃元政調会長(51)といった若手、さらに女性の小池百合子元防衛相(56)だ。なにやら賑やかな総裁選に目を奪われがちだが、あくまでも自民党関係者による選挙である。
▼与謝野氏が総裁・首相になれば、小沢・民主党との大連立も可能との噂もある。その先に待っているのは憲法改正だろう。しかし、ここはやはり人気のある麻生氏が選ばれ、麻生内閣で次の解散・総選挙に臨む可能性が高い。ちなみに麻生氏も二世議員である。
▼選挙に勝てる状況になるまではと、いつまで経っても「暫定政権」、たらい回しである。これでは有権者無視だ。憲法改正よりも先にやらなければならないことは多い。自民・公明にそれが出来なければ、さっさと政権交代すべきだろう。(武)

Friday, September 05, 2008

大統領選のダイナミズム

▼コロラド州デンバーの7万5000人収容の巨大競技場は超満員となった。米史上初の黒人大統領を目指すオバマ上院議員の指名受諾演説を聞くためだ。
▼共同の記事から参加者の声を拾ってみよう。オバマ氏の指名について「生きているうちにこんなことが現実になるとは思わなかった」(六十代の黒人男性)、昔は白人の隣でハンバーガーを食べることもできなかったと言う。二十代のある白人女性は「オバマ氏は私たちの世代を政治に目覚めさせた」と語る。
▼「米国よ、我々は今よりもっと良い国のはずだ」。オバマ氏が呼び掛けるたびに、巨大なスタジアムが地響きを上げて揺れた。
▼だがオバマ氏にひところの勢いはない。オバマ氏の訴える「変革」はあいまいという声は多い。外交・安全保障問題に疎いとされ、副大統領候補に、この方面に強い民主党の重鎮バイデン上院議員(65)を選んだが、ワシントンの政治にどっぷりつかっている人物でもある。
▼一方、共和党大統領候補のマケイン氏は、ロシアのグルジア侵攻で直ちにロシアを批判するなど存在感を示した。副大統領候補には女性のペイリン・アラスカ州知事(44)を選んだ。ペイリン氏は民主党指名争いに敗れたヒラリー上院議員(60)を讃え、「彼女が破ろうとしたガラスの天井は頑丈だったが、われわれは砕くことができる」と、女性初の副大統領の意義を強調、ヒラリー支持者の取り込みを図っている。
▼もっともペイリン氏は人工妊娠中絶に反対など保守派であり、外交経験は皆無、女性だからといってヒラリー支持者を取り込めるかは未知数だ。宗教保守派に不人気のマケイン氏をカバーするために担ぎだされたと見るべきだろう。
▼それにしても1年前には想定できなかった正副大統領候補4人である。ここに感じるのは米国の民主主義のダイナミズムであり、どうやらそれは人々の控えめな思惑を超えて前進していくもののようだ。(武)

Thursday, August 14, 2008

米ロ新冷戦勃発

▼平和の祭典である北京オリンピック開会式直前に、グルジアの南オセチア自治州で戦争が始まった。グルジアのサーカシビリ大統領は「ロシア軍はグルジアを侵略した」と非難、米国のニュースを見ていると、いかにも大国ロシアが一方的に軍事介入したかのようである。
▼しかし、停戦合意を破り戦争を始めたのはグルジア軍である。グルジアからの分離独立を主張する親ロシアの南オセチア自治州の州都ツヒンバリ周辺をグルジア軍が攻撃したのが端緒だ。ロシアは平和維持軍が攻撃を受けたため、反撃に出たのが実際だ。
▼南オセチアは92年の国民投票で9割以上が独立を支持して以降、憲法や国会が制定され、大統領もいて事実上独立している。だがグルジアはもちろん、国際社会は認めてこなかった。南オセチアの独立を阻止したいグルジアだが、何故この時期にグルジアは進撃したのか?
▼それは今年2月のセルビアのコソボ自治州の独立宣言だろう。欧米諸国は相次いで承認した。実質的に独立していれば、独立は可能との前例が出来たのだ。
▼グルジアが焦ったのはそこだろう。皮肉なことに「国際秩序の崩壊を招く前例となる」と、コソボの独立に反対したのが南オセチアを支援するロシアである。
▼シェワルナゼ前大統領を追放したサーカシビリ大統領ら現政権は、投資家のジョージ・ソロスなど米国の後ろ盾で成立したいわば米国の「傀儡政権」。今回のグルジア軍の南オセチア進攻も米国の承認のもと行われたと思われる。
▼背後にあるのは資源や経済、地政学的な面も含めた米ロの覇権争いであり、事実上の米ロ代理戦争なのである。米大統領選も絡んでいる可能性もある。そこで、サルコジ仏大統領が事実上の仲介役としてモスクワを訪問することになったわけである。
▼だがいまさら米ロ冷戦の再来でもないだろう。この新冷戦は旧大国の起死回生を狙ったあがきに思える。(武)

Sunday, August 03, 2008

「タクシー・ドライバー」とヘイト・クライム

▼マーティン・スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」という1976年公開の傑作映画がある。ベトナム戦争の帰還兵で不眠症に陥り、マンハッタンのタクシー運転手となった男(ロバート・デ・ニーロ)が主人公だ。
▼男は失恋を経て、腐敗したこの街を浄化してやると次期大統領候補射殺を目論むが失敗する。その代わりでもないが13歳の売春婦(ジュディー・フォスター)を救うべく、ヒモやチンピラ、客を多数射殺する。
▼テネシー州ノックスビルの教会で7月27日、男(58)が銃を乱射し2人が死亡する事件が起きた。警察によれば、男は散弾76発を用意、「大量殺人を目論み、自身も生きて教会を出るつもりはなかったとみられる」という。
▼事件のあった教会はプロテスタントの一派、ユニテリアン派で、人種差別撤廃、女性や同性愛者の権利向上などリベラルな活動で知られていた。警察は「職を得られないいらだちをリベラル派に向けた犯行」と指摘、「憎悪犯罪(ヘイト・クライム)」と見ている。
▼6月8日の7人が死亡した葉原通り魔事件はどうだろう。加藤智大容疑者(25)は恋人や友達が出来ず、また派遣社員としての不満を募らせていた。彼の矛先はゲーム好きの自身ともなじみのある秋葉原に集う一般市民だった。
▼タクシー・ドライバーでは主人公は支配の象徴でもある大統領候補を狙い、次に犯罪人たちを射殺した。だが、ノックスビルの教会や秋葉原で犠牲になった人たちは権力者でも犯罪者でもない。憎悪犯罪というが彼らは方法以前に標的自体が間違っている。池田小事件同様、実際には「弱いもの」を相手にしているに過ぎない。
▼犯罪人たちを射殺した映画のタクシー・ドライバーは、本人の意図とは裏腹に町の「英雄」となる。だが無差別テロに走る過激派と同じく、間違っても加藤容疑者らが英雄になることはない。