Thursday, December 14, 2006

命(いのち)の尊さ

▼今年ももうすぐ終わる。日本漢字能力検定協会主催の「今年の漢字」に「命」が決まり、京都の清水寺で発表があった。全国から約9万2500通の応募があり「命」が約9%の約8360通で一位だったという。
▼今年は、秋篠宮家の長男悠仁(ひさひと)さま誕生で「生まれた命」に注目が集まる一方、いじめ自殺や子供虐待、飲酒運転事故などの痛ましい事件が相次いだ。「一つしかない命の重み、大切さを痛感した」のが選考理由と同協会。
▼命の尊さはいつも声高に叫ばれてきた。だが、病気や事故はまだしも、世界では人為的な紛争で毎日、人が死んでいる。たとえば、イラク駐留米軍が8日、イラク聖戦アルカイダ組織の掃討作戦を行ったが、警察によると死亡した17人のうち5人は子供で6人は女性という。
▼米ジョンズホプキンズ大などの推計によれば、イラク戦争開戦後から今年6月までのイラク人の死者数が約65万5千人に上る。米政府は「信頼性がない」と反論したが、シャンマリ・イラク保健相は先月、死亡したイラク人は少なくとも推計15万人に上ると表明した。一方で米軍の死者は12月初旬に死者2900人を突破、9・11テロ犠牲者の数をイラクだけで上回りそうな勢いである。
▼命をどれだけ大切にしているかは、文明の到達度を示すと言ってよいだろう。それ故に自爆テロの愚かさ、悲しさは痛感の極みである。パレスチナで先月、孫をイスラエル軍に殺された64歳の女性が自爆攻撃を行い死亡した。パレスチナ人では過去最高齢とみられる。
▼命の尊さは、秋篠宮家の長男悠仁(ひさひと)さまだろうがイラクの名もない子供だろうが同じだろう。命の尊さを噛みしめながら、今年も年が明けていく。(Capital2006年12月15日号より転載)

Wednesday, November 29, 2006

ネオコンの退場と中東政策の転換

▼イラクのサダム・フセイン元大統領への死刑判決が下され、旧政権中枢を占めていたイスラム教スンニ派によるシーア派へのテロ激化が懸念されていたが、現実のものとなった。バグダッドで23日に起きたシーア派へのテロは犠牲者200人以上を出した。
▼NBCテレビは27日、イラクの現状を「内戦」と表現すると発表。ワシントンポスト紙によると、イラク戦争は同日で3年8カ月と8日となり、太平洋戦争の米軍参戦期間を上回った。米兵の死者は2800人を超えている。
▼中間選挙敗北でイラク政策の転換を迫られたブッシュ大統領は、イラク情勢打開に向けヨルダンやイラクを訪問。チェイニー副大統領もスンニ派大国であるサウジアラビアを訪れた。
▼ヨルダンやイラクのシーア派民兵組織は武器や訓練などでイランの支援を受けているとされる一方、スンニ派武装勢力はシリア経由でイラク入りしている可能性が高い。そんな中、シリアは80年代初頭に断絶したイラクと国交回復した。
▼ベーカー元国務長官ら超党派でつくる「イラク研究グループ」はイラク政策に関する提言作成をめぐり国連のアナン事務総長に協議を申し入れた。米国はこれまでシリアやイランを非難していたが、同グループは、イラクの安定のためにはシリアやイランの協力が必要との考えだとされる。
▼イラク戦争を主導し、大きな発言力を誇ったネオコン(新保守主義)の代表格、リチャード・パール氏は、イラクの泥沼化を招いたのはネオコンではなく「長期化する占領」を続けるブッシュ政権中枢だと反論したが、責任のなすり合いにしか聞こえない。すでに退場を余儀なくされた形だ。
▼ネオコンにとってイラク侵攻は彼らの言う「中東民主化」の第一歩に過ぎなかったはずが一歩目から躓いた。イラク問題を巡り、米国は核問題などで敵対するイランやシリアとの協調へと、大きな転換を迫られている。(CAPITAL2006年12月1日号より転載)

Monday, November 13, 2006

リベラルと保守

▼中間選挙は民主党の大勝利となった。全議席改選の下院(定数435)で民主党が最終的に過半数を上回り、231議席前後を獲得する見通しだ。
▼上院でも民主党は同党系無所属二人を含めて51議席を獲得、下院に続き上院でも多数派を奪回。上下両院の多数派が逆転するのは12年ぶりだ。知事選でも、改選前の共和党28州に対し民主党が22州が、28対22となり逆転した。
▼次期米大統領選出馬が取りざたされるヒラリー・クリントン民主党上院議員はニューヨーク州上院選で圧勝。大統領候補としてはリベラル過ぎるとの懸念は消えたかのようだ。
▼下院では米国史上初の女性議長に、リベラルで知られるナンシー・ペロシ院内総務が就任する見通しとなった。大統領、副大統領に次ぐナンバー3の要職だ。
▼これらを新しい潮流を見る向きは多い。米国は保守からリベラルへ軸を移すのだろうか? しかしヒラリー氏は中道路線になったに過ぎない。テネシー州上院選では黒人下院議員の民主党ハロルド・フォード氏は共和党候補に敗れている。また大統領選への出馬を示唆した民主党の若手黒人政治家、オバマ上院議員の人気が高いのは宗教保守派にも支持者がいることからと言われる。
▼中間選挙と同時に実施された全米各州の住民投票を見ると、少なくとも7つの州で同性婚を禁止する州憲法改正が可決されるなど、民主党が躍進した議会選挙とは裏腹に、保守化の潮流が浮き彫りとなった。アリゾナ州では、英語を公用語とし、非英語圏からの移民に対する英語以外の語学教育を制限する事実上の反移民法案を承認した。
▼今回、共和党はキリスト教保守派の取り込みに失敗したとされている。米国民は泥沼化したイラク戦争にノーを突きつけたのであってリベラルに大きく軸足が動いたと見るのは時期尚早のようだ。(CAPITAL2006年11月15日号より転載)

Friday, October 27, 2006

黒人大統領と女性大統領

▼中間選挙キャンペーンは民主党優位のうちに進んでいるが、民主党の応援演説で各陣営から引っ張りだこなのが黒人政治家、バラク・オバマ上院議員(イリノイ州選出)(45)だ。
▼ハーバード大ロースクール出身の人権派弁護士で、〇四年の初当選以来、「将来の大統領候補」と目されてきたが、本人は今年初めに大統領選出馬を全面否定していた。しかし二十二日、〇八年の大統領選への出馬の可能性を検討すると表明したのだ。
▼男女平等を標榜し、黒人差別問題にも積極的に取り組んできた米国だが、いまだかつて女性と黒人は大統領になったことがない。
▼過去に黒人大統領誕生の動きがなかったわけではない。コリン・パウエル氏である。黒人初の統合参謀本部議長として第一次湾岸戦争の英雄となったパウエル氏は96年、共和党からの大統領出馬が取り沙汰され、立候補すれば当選は確実と言われた。
▼だが、「黒人が大統領になったら暗殺される」とする妻(白人)の反対のため出馬せず。第一期ブッシュ政権で初の黒人国務長官になった。今では、米国大統領が誰だろうとアルカイダなどの暗殺の対象である。
▼次回大統領選をめぐっては、ヒラリー・クリントン上院議員の出馬が有力で、圧倒的な資金力と知名度から民主党の指名獲得の可能性が高いとされている。ヒラリーが大統領になれば、初の女性大統領誕生だ。
▼一方、共和党には国民的人気の高い現国務長官のライス氏がいる。彼女が大統領になれば黒人でかつ女性という画期的な大統領が誕生する。
▼初の女性大統領や黒人大統領はいつ誕生するのだろう。そろそろ新しいページが開かれてもいいのではないか。(CAPITAL第22号より転載)

Friday, October 13, 2006

危険な国

▼危険な国としてブッシュ大統領に「悪の枢軸」とまで言われた北朝鮮が、核実験に成功したと発表した。日米を敵視する核兵器保有国がすぐ日本の西に出現した。東アジアの核保有国はロシアと中国のみで、日本と韓国が米国の「核の傘」に入ることで戦略バランスが保たれてきたが、この均衡が崩れる可能性が出てきた。
▼これは米政権の対北朝鮮政策の失敗を意味するのか? 中間選挙を前に、民主党はブッシュ共和党政権のこれまでの対応の甘さを攻撃しているが、これで中ソが重い腰を上げ、北朝鮮に対する本格的経済制裁が実施できるという見方もある。
▼そもそも核実験は成功したのか疑問が残る。茶番劇の可能性も捨てきれない。いずれにせよミサイルへの搭載となるとまだ数年はかかると見られる。まだそれほどの脅威はないと見る向きが多く、株価の動きも小さかった。
▼今回、米メディアや専門家の論調で目立ったのは、これを機に日本が核武装を始めるのではということだ。アジア諸国も日本の出方を注視している。
▼「日本は技術力があれば数カ月で核兵器を保有できる」(クリスチャン・サイエンス・モニター紙)などと米メディアが相次ぎ報道、ワシントン・ポスト紙は「米当局の主な懸念は、日本のこれからの反応だ」とし、北朝鮮の核実験は「日本が数十年続けてきた非核の公約を破る」ことにつながりかねないと予測した。
▼韓国、台湾が核兵器開発に乗り出す「ドミノ化」も指摘される。台湾が核武装に踏み切れば、中国が一層の軍拡に走るのは必至で、台湾海峡の緊張も高まることになる。さらに、自国開発は無理でも、核移転によりベトナム、ミヤンマーなどが核兵器保有国を目指す可能性も指摘されている。
▼ライス長官は「日本の核武装による地域の核バランスの変化が安全保障状況の改善につながるとは、誰も考えていない。我々は日本を信用している」と語り、ブッシュ大統領は「弾道ミサイル防衛(BMD)」の推進を強調した。
▼拉致問題で北朝鮮非難を強める国民と、改憲を目指す安倍政権という現在の日本は、思いの外「危険な国」と思われているのかも知れない。
(CAPITAL#22 2006年10月15日号より)

Tuesday, October 10, 2006

二つのキリスト教右派

 先日、「ジーザスキャンプ」というすごい映画を見た。5歳〜12歳までを対象のキリスト教を教える福音派のサマーキャンプのドキュメンタリーなのだが、キャンプディレクターのベッキー・フィッシャー牧師は、イスラム教徒の自爆テロを暗に引き合いにして、キリスト教徒にも神のために命を捧げられるような「神の国の戦士」を育成したいようなことを言う人。いきなりハリー・ポッターは魔法使いの悪魔だから殺さなくてはならないと子供たちを動揺させ、政府は悪とGOVERMENTとマジックで書いたコーヒーマグをトンカチで割らせたりする一方、中絶反対のブッシュ大統領の等身大写真を拝ませる。さらに神の戦士の格好のつもりか、迷彩ペイントを顔に塗り、棒を剣にみたてて踊らせる。福音を大声で読ませて神に救済を求めると、子供たちの中には興奮して涙を流したり痙攣したりと、オウム真理教も顔負けのキャンプだ。
 ちょっと極端な例かも知れないが福音派(原理主義者)は全米で3千万とも5千万人ともいわれ、今のブッシュ政権を支えている。同じ保守的なキリスト教徒でも、学校襲撃で5人の児童が殺害されたアーミッシュの村では、犠牲者の遺族らが事件後、犯人の家族を許すと伝え食べ物を与えたという。アーミッシュの許しの文化は生存者の癒やしにつながり、復讐より許す方がはるかに大切であることを教えてくれた。  

Tuesday, October 03, 2006

機密報告書のスクープ

▼ニューヨーク・タイムズは24日、イラク戦争がイスラム過激派の活動を活発化させ、テロのネットワークを拡大させる結果となったと、米政府の機密報告書「国家情報評価(NIE)」が結論付けていることをスクープした(電子版は23日)。
▼「国際テロの傾向」と題されたこの報告書は、中央情報局(CIA)など16の米情報機関の統一見解を盛り込んだもの。米国やイスラエルなどへの「ジハード(聖戦)」の思想は、イラク戦争によって世界に広がったと指摘、イスラム過激思想は衰退しているというより、地球規模で転移、拡大したと結論付けている。
▼テロとの戦いにより「世界はより安全になった」と主張しているブッシュ政権は慌てふためき、「(報道はテロの全体像を)歪曲している」(ネグロポンテ国家情報長官)などと反論、ブッシュ大統領は「報道でイラク戦争開戦は誤りだったと結論付ける人も出てくる。それには我慢ならない。自分自身で結論を出してほしい」とした。
▼だがこれで収まるわけがなく、上院情報特別委員会のロックフェラー副委員長(民主党)は長官に書簡を送り、上院議員にも公開されない機密扱いのNIEの公開を要求、国家情報長官局は26日、機密解除してその一部を公表した。
▼報告書は、「イラクでの『聖戦』は新世代のテロ指導者や活動家を作り上げている」「反米を掲げる新たな過激派が出現する可能性が高まっている」と指摘、イラクでの紛争が「米国に対する深い憎悪を生み、世界規模の聖戦の動きを支援する勢力を助長させている」と明確に分析している。
▼イラク戦争に反対していた人たちから見れば、なにをいまさらという感じだが、これが世の中の流れというものだろう。中間選挙を前に野党民主党は勢いづく。
▼それにしても、報告書は政府機関内での激論を経てまとめられたものなのだというのに、何故それがブッシュ大統領の言うことと違っていたのか。
▼日本では安倍新内閣が発足した。いろいろ考えはあるだろうが、まずは誠実で、腹蔵のない政治運営を願いたい。

Tuesday, September 12, 2006

イラク戦争が焦点の中間選挙

▼11月7日の投開票日の中間選挙まで2カ月を切った。上院(定数100)で改選を迎える33州と、全議席改選の下院(定数435)の各選挙区では相次いで予備選が行われ、終盤戦へ向けて選挙活動を本格化させている。
▼共和、民主両党の候補者を決める予備選挙で明らかになったのはイラク政策に対する態度が投票を大きく左右しているといことだ。これは共和、民主党を問わない。
▼去る8月8日に行われたコネティカット州民主党予備選では、イラク戦争を支持した大物ジョゼフ・リーバーマン上院議員(64)が、反戦派の新人で実業家のネッド・ラモント氏(52)に敗れ、大きな衝撃が走った。
▼この結果を受け、同州の共和党ベテラン、シェイズ下院議員は最近、明確に米軍撤退期限設定の必要性を主張。大統領に反旗を翻す戦術で生き残りをかけている。
▼12日のロードアイランド州共和党予備選ではチェイフィー上院議員が、イラク戦争に反対したため保守派の反発招き再選が危ぶまれたが、保守派の新人候補を辛勝とはいえ退けた。
▼13日のバージニア州の民主党予備選では、レーガン政権時代の海軍長官で、イラク戦争批判の急先鋒として共和党から民主党にくら替えして出馬したジム・ウェッブ氏が選出された。
▼12日のニューヨーク州の民主党予備選では、イラク戦争反対の運動家として知られるジョナサン・タシニ氏にヒラリー・クリントン上院議員が圧勝したが、圧倒的な知名度と資金力に加え、自身も「戦争を始める前に国連の支持こそ必要だと主張し国際社会の協調を優先させていた(NYタイムズ紙)」わけである。
▼イラク政策が最大の争点となる中、リード上院院内総務に「この5年間で米国はより安全でなくなった」まで言われた共和党・ブッシュ政権。民主党は下院で15議席を上積みすれば、上院では六議席を上積みすれば多数派となる。「反現職」「反与党」を追い風に12年ぶりに奪回するか注目される。

Tuesday, August 29, 2006

テロとナショナリズム

▼山形県鶴岡市の元自民党幹事長加藤紘一衆院議員の実家と事務所が8月15日に全焼した。右翼団体の構成員が敷地内で腹部から血を流して倒れているのが見つかった。割腹自殺を図ったとみられ、病院に運ばれ、29日に放火などの疑いで逮捕した。
▼犯行が終戦記念日の8月15日で、加藤議員が小泉首相の靖国神社参拝を批判していることから犯行に及んだと見られる。だとすればテロそのものである。
▼「テロとの戦い」を掲げてきたはずの小泉首相は28日なってようやく、「暴力で言論を封じることは、決して許されることではない。厳に注意しなければならない」と述べ、自らの参拝が「ナショナリズム」をあおり立てているとの指摘については否定したが、果たしてそうか?。
▼警察庁の漆間巌長官は「加藤議員の発言から、右翼団体の反発が予想され、山形県警も当日、異常がないか連絡を取っていた」という。残念ながら未然に防ぐことは出来なかった。
▼9月に安倍氏が自民党総裁になった場合、事態はさらに悪化するかもしれないと加藤氏は言う。なぜなら小泉首相はまだ東條たちが戦犯だと認めているが、安倍氏はその考えを受け入れていないというのだ。安倍氏は祖父・岸信介元首相の考え方に強く影響されていると加藤氏は指摘する。岸氏は戦後、戦犯に指定されて拘束されたが東京裁判で訴追はされず、後に首相となった人物だ。
▼加藤氏は「非常に強い反中かつ反韓、時には反米的でもある愛国主義が日本に広がっていることが、心配だ」と懸念している。
▼日本がどうして先の愚かな戦争をしてしまったかについて、当時は戦争に突き進まなければテロられるような状況に政治家が追い込まれていた面があることを指摘する研究家もいる。どんな主義・主張を掲げようと、テロは決して許してはならない。(西)
(CAPITAL06年9月1日号より転載)

Friday, August 11, 2006

正義という名の原理主義

▼唯一の被爆国である日本が61年目の夏を迎えた。伊藤長崎市長は平和宣言で、核開発が疑われているイランや北朝鮮を名指しし「世界の核不拡散体制は崩壊の危機に直面している」と深い懸念を示した。
▼ネバダ州の核実験博物館では「原爆展」が開幕した。被爆者の声を代表した丸田和男さん(74)は、現在も約一万発の核弾頭を保有する米国に廃絶に向けた行動を求めた。聴衆の多くは平和への願いを真摯(しんし)に受け止めたが、「核廃絶は理想論」との冷めた意見もあった。
▼退役軍人のひとりは「何故あの戦争が始まったのか。日本の中国侵略など米国が核保有を迫られた状況に全く触れていない。もし日本が先に核兵器を持っていたら、もっと多くの被爆地があっただろう。彼らの核廃絶は理想論にすぎない」と批判した。
▼何故、イランや北朝鮮は核兵器を持ちたがるのか。イランも北朝鮮も「自衛のため」と言う。「恐怖の均衡」や「核抑止力」により自国が守られるとするいわゆる冷戦以来の「核信仰」だ。
▼「生存圏確保」や「自衛」はナチスドイツや軍国主義の日本でも語られていた。また、戦後の世界は核保有国が強力な影響力を持った。国連で拒否権を持つ安保理常任理事国はすべて核保有国であり「核兵器クラブ」と揶揄されたほどである。
▼戦争は古来、「戦争は他の手段をもってする政治の延長」(クラウゼビッツ)で、軍人同士が戦うものだった(カルタゴなど例外もあるが)。それが近代にはいると市民やインフラも対象とする「総力戦」に突入、無差別攻撃の最たるものとして米国は日本に原爆を落とした。
▼ベストセラー『バカの壁』などで知られる養老孟司氏は著書『まともな人』で「なぜわれわれは、戦争がやめられないのか。正義の戦争があるからであろう。さらにいうなら、正義があるからだろう」と看破している。
▼この地上から核兵器や戦争をなくすには「正義という名の原理主義」も廃棄しなくてはいけないのかも知れない。(西)
(CAPITAL06年8月15日号より転載)

Thursday, August 10, 2006

最初で最後の熱い夏

▼宮内庁長官、富田朝彦氏(故人)が書き残した昭和天皇の発言メモは大きな波紋を呼んだ。
▼88年4月28日付メモによると、昭和天皇は「私は或(あ)る時に、A級が合祀され、その上、松岡、白取までもが」「だから私(は)あれ以来参拝していない。それが私の心だ」などと語ったと記されている。明らかにA級戦犯合祀(ごうし)に不快感を示したものだ。
▼昭和天皇は戦後、靖国神社を8回参拝し、75年11月が最後だった。当時から昭和天皇が参拝をしなくなったのは、A級戦犯の合祀が影響しているのではないかとの指摘があったが、その指摘は正しかったことになる。
▼小泉首相は「心の問題だから。強制するものでもない。誰でも自由だ」と何の影響もないことを述べた。政府筋は「皇室は政治利用しないのが一つの見識だ」としたが、中国で反日暴動が起きれば、数千億円単位の損害が出るのではと懸念する経済界はじめ、靖国参拝批判勢力には間違いなく追い風となった。
▼一方で、自民党内にある中国、韓国が反対だから靖国参拝は止めようという「消極論」を民主党の小沢代表は一蹴、A級戦犯は戦争責任があり戦死者ではないことから、合祀(ごうし)は誤りだったとの考えだ。
▼安倍官房長官が、首相の靖国神社参拝について、「(A級戦犯は)国内法的には犯罪者でないと国会で答弁されている。講和条約を受け入れたから参拝すべきでないという論議は、全くトンチンカンだ」と述べた。
▼天皇の不快感メモが明らかにしたのは、靖国問題が、「心の問題」として封印できるものではなく、外国からの圧力の問題でもなく、まず、国内における「歴史認識」の問題としてあることだ。
▼国立追悼施設推進派だった福田元官房長官は総裁選レースから降りたが、日本遺族会会長である自民党の古賀誠元幹事長靖国神社にA級戦犯の自発的な分祀(ぶんし)を促す決意を改めて表明した。
▼首相が8月15日に靖国に参拝したとしても、A級戦犯が合祀された中での、最初で最後の終戦記念日首相参拝となりそうである。
(CAPITAL8月15日号<第16号>より転載)

Wednesday, July 12, 2006

ミサイル・ビジネス

▼北朝鮮が5日、ミサイル6発を日本海に発射した。うちひとつは長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の可能性が高い。
▼日本では経済制裁を強めるべきだ」とした人が80・7%に達するなど(共同通信社の電話世論調査)、北朝鮮の脅威が大々的にクローズアップされる。
▼北朝鮮の目的はミサイル発射で米国を二国間協議に引きずりだすことと、ミサイルビジネスの推進だと思われる。イランのミサイル関係者も北朝鮮入りしていたという。しかしテポドン2号の「実演販売」はあえなく失敗したようだ。
▼米国は、アラスカ州などに配備してある地上発射型迎撃ミサイルを「試験稼働状態」から「実戦稼働状態」へ切り替えていたらしい。だが、ブッシュ大統領は、ミサイル防衛システムで「迎撃できるチャンスはそれなりにあった」と述べているが、テポドン2号は展開していたイージス艦のレーダーにも映らなかったらしい。
▼こんなお粗末な結果であるに関わらず、日本ではミサイル防衛網(MD)が必要との声が高まり、額賀防衛庁長官は、憲法の範囲内で可能な敵基地攻撃の装備を検討すべきだとの考えまで表明した。
▼米国議会も共和党を中心に対北朝鮮圧力を強化する構えで、下院軍事委員会のハンター委員長(共和党)は、年間約百億ドル規模を予算計上し、ミサイル防衛の構築をより強力に推進する考えも示した。
▼ところが国際社会は、北朝鮮非難の声はあるもののトーンは低い。北朝鮮と関係の深い中国、ロシアのみならず、韓国政府も日米などが国連安全保障理事会に提出した制裁決議案について「ミサイル計画を食い止める効果があるのか」と疑問を呈した。
▼日本政府は「平壌宣言」に違反しているという判断だが、北朝鮮の今回のミサイル実験は国際法を犯したわけではない。お粗末なミサイルに大騒ぎしているのは日本とミサイル防衛網関係者のようだ。
▼ブッシュ米大統領は「米国には差し迫った脅威ではない」と判断、「現時点の戦略は中国が北朝鮮に対し六カ国協議に戻るよう説得することだ」としている。ミサイルより核問題の方が重大という考えだ。
▼イラクでの大量破壊兵器の間違いに懲りて、こんなミサイルでは脅威を煽ることはできないと判断したのだろうか、それとも現在のミサイル迎撃技術が使い物にならないことが分かったからなのだろうか。無謀なイラク侵攻を決断した人物とは思えない賢明さである。
(CAPITAL7月15日号(第15号)より)

Monday, June 12, 2006

アブク銭集団と格差社会

▼村上ファンドの村上世彰前代表逮捕は日本では号外も出るニュースとなった。「出る杭は打たれる」「天罰が下る」といった言葉がインターネットやスポーツ紙などを賑わした。ホリエモン逮捕に続く「アブク銭集団」退治に庶民は溜飲を下げたというところか。
▼村上ファンドの敵対的投資スタイルは、米国では既に「過去のもの」で、企業と協力しながらリストラなどによって企業価値を高める「友好型」が主流だ。また半ば公然の日本と違い「インサイダー取引」には厳しく、あのマーサ・スチュワートすら堀に入ったくらいだ。
▼そんな米国だが、9日付のニューヨーク・タイムズは村上逮捕に意外な反応を見せた。「日本はいまだに古い統制組織として振る舞い、(村上容疑者という)起業家を威嚇することで、社会で波風を立てる人間を罰している」と批判的な見方を示したのだ。
▼景気低迷期にはもてはやされた村上ファンドだったが、日本の景気回復に伴い、伝統的な日本経済界が自信を取り戻すと、一斉に背を向けたというわけだ。
▼インサイダー取引での摘発は日本では珍しい。村上逮捕に踏み切ったのは、検察と全面対決しようとする堀江貴文被告を追い込むだめだというのは間違いないだろう。
▼東京地検は世相を見て動いているとよく指摘されるが、今回そのメッセージは「格差社会などとぼやいてないで地道に働け」ということなのだろうか。
▼実は伝統的な日本経済界こそが、景気低迷期に「格差社会」を作ってしまったのである。村上や堀江はむしろ、それらに一石を投じた面があることを指摘しておきたい。
(CAPITAL6月15日号より転載)

Monday, May 29, 2006

「社会ネットワーク分析」と共謀罪

▼五月十一日付の米紙USAトゥデーは、9・11テロ後、NSAが通信会社に一般市民の通話記録提示を迫り、数十億件の記録を集めていたと報道。ほかの主要メディアも一斉にこの問題を伝えた。
▼ブッシュ大統領は「われわれの情報活動はアルカイダとその関連組織を標的にしている。一般の米国民のプライバシーは極めて厳しく保護されている」と理解を求めたが、対象となったのが数千万人では言い訳にしか聞こえない。
▼確かにこれは内容そのものを盗聴していたわけではない。誰と誰がつながっていて、誰が中心人物かの「目に見えない」市民のネットワークをデータベース化するのが目的だった思われる。いわゆる「社会ネットワーク分析」である。
▼背景にあるのは9・11テロ事件である。ネットワークのコンサルタントであるバルディス・クレブス氏が、一見単なるメンバーのひとりに過ぎないように見えるモハメド・アッタが、「ネットワーク分析」によって、実は主犯であるということが分かるとしたのだ。
▼科学的であるかどうかは論議されるところだが、これがコンスピラシー(Conspiracy=陰謀)とつながったらどうなるだろう。
▼コンスピラシーとは、実行に移されるのを待たずして犯罪となり得ることである。たとえばカリフォルニア州におけるコンスピラシーとは、最低二人の人間が犯罪の実行を合意し、最低ひとりがその犯罪を実行するために何らかの行為をすれば全員を処罰出来る。多くの国で、殺人の陰謀などは明白に犯罪と規定している。
▼現在、日本で論議されているの「共謀罪」はあくまで「組織的な犯罪の共謀罪」なのだが、あらゆる社会ネットワークが組織的とみなされないとも限らない。
▼「社会ネットワーク分析」が犯罪捜査に使われ、共謀罪とセットになったら、誰もが犯罪者になりうる可能性があると言えないだろうか? 飲み友だちの中で、二人以上で犯罪めいた話をしただけで、皆が巻き添えを食う可能性もあるのだ。
▼「プライバシー」がいかに大切か、改めて考えたい。
(CAPITAL6月1日号より転載)

Friday, May 12, 2006

第三次世界大戦か第二の冷戦か

▼映画も公開中だが、9・11テロの時、乗っ取られたユナイテッド航空93便の機内で乗客がテロ犯と格闘したのをブッシュ大統領は「第三次世界大戦での最初の反撃だった」と語った。
▼テロとの戦いは「第三次世界大戦」というわけだが、本当にアルカイダ相手に世界大戦と言えるようなことなのだろうか?
▼冷戦はとうの昔に終わったはずだが、チェイニー副大統領がロシアのプーチン政権下の民主化後退を批判、ロシアのメディアは「第二の冷戦の始まり」と報じた。
▼副大統領は「反ロシア」の急先鋒(せんぽう)であるグルジアのサーカシビリ、ウクライナのユーシェンコ両大統領を「現代の英雄」と称賛。ロシアは民主的改革路線に戻るか、欧米の「敵」になるか「岐路に立っている」と警告したのだ。タカ派の副大統領から見れば、もうアルカイダでは役不足らしい。
▼お膝下の中南米では、キューバのカストロ国家評議会議長とベネズエラのチャベス、ボリビアのモラレス両大統領が、ベネズエラによる石油支援を柱に、左派政権の三国が広範な分野で相互協力を強化する協定を締結した。南米は資源ナショナリズムを通じ、反米の社会主義が進行しているといえる。
▼そして中国は依然として共産党独裁の社会主義国である。将来GNPで米国を抜けば、世界最大の国家は社会主義国となる。資本主義は社会主義に勝利したのではなかったのか。
▼米国は冷戦に勝利したというが、実際はソ連が勝手に自滅したという方が的を得ている。いずれにせよ、社会主義はそう簡単にはなくならないようだ。
(CAPITAL5月15日号より転載)

Friday, April 28, 2006

辞任という責任の取り方

▼日本では、不祥事があったりすると何かにつけ責任者が辞任する。辞任すれば済むのかというくらい簡単に辞任することが多い。辞任しないとでも言おうものなら、権力にしがみつく醜悪な姿と映るのが常だ。
▼ところがこちらでは、強い辞任要求が出ても辞任しないくていいらしい。言うまでもなく、ラムズフェルド米国防長官のことである。
▼テレビに出演し口火を切ったのはジニ元中央軍司令官。米統合参謀本部の作戦部長を務めニューボールド元海兵隊中将はイラク戦争は「不必要だった」と断言し、イラク戦争はアルカイダから目をそらす結果を招いたと指摘して国防長官らの交代を要求するなど、少なくとも6人の退役将軍が明確に長官の辞任を求めた。
▼しかしラムズフェルド長官は「私は大統領のために仕事をしている」と述べ、辞任する考えがないことを表明。ブッシュ大統領は「私が決定者だ。何がベストかといえばラムズフェルド氏が長官にとどまることだ」とあらためて支持を確認した。
▼ブッシュ大統領は十一月の中間選挙を前にホワイトハウスのスタッフ刷新を断行したものの、二十四日発表のCNNの世論調査結果によると大統領の支持率は前月より4ポイント低い32%で過去最低を更新(不支持率は60%)、歴代大統領の最低水準である20%台が目前に迫る危機的状況となった。
▼戦争など国民の目を外に向けることによって国内の不人気を払拭する手法は、政治の常套手段である。強硬派のラムズフェルド長官を残し、中間選挙に勝つために対イラン戦争を断行といったことにならないように願いたいものだ。
(CAPITAL5月1日号より転載)

Thursday, April 13, 2006

「靖国」の政治問題化

▼民主党の新代表・小沢一郎氏が就任早々、さっそく政権奪取に向けて仕掛けた。首相の靖国神社参拝自体は賛成だが、「小泉さんのはだめだ。戦争を指導した人たちは靖国に本来祀(まつ)られるべきではない」とし、A級戦犯の分祀を「(私が)政権を取ったらすぐやる」とテレビ番組で述べたのだ。
▼これに対し小泉首相は「政府が言うべきことではない」と反論、次期、総理・総裁の声が高い安倍晋三官房長官も「政府が合祀(ごうし)取り消しを申し入れるのは憲法二〇条の信教の自由の侵害となり、政教分離の原則に反するのではないか。靖国神社が決定すべきで、政府が介入すべき事柄ではない」と、分祀論を明確に否定した。
▼首相はまた、「(小沢氏の主張は)中国が参拝をいけないと言ってるからなのか、戦没者に哀悼の念を表するのがいけないのかよく分からない」と皮肉った。
▼首相の靖国神社参拝によって中・韓との首脳会談が中断している状況になっている。「靖国問題」は中国・韓国の外交カードとなっているとはしばしば指摘されるが、今度はこれが日本の政党間の対立軸の一つとなるのだろうか。
▼外交カードとしての靖国問題は「歴史認識」の問題であることは間違いないが、問題を複雑にしているのは、その根底に死生観、宗教観が横たわっているからだろう。その点では二大政党制下の米国の「中絶問題」や「同性愛問題」などに似たものを感じる。
▼白か黒かの単純な選択は二大政党制を押し進め、政権交代をやりやすくするだろうが、民主主義が安易な「踏み絵」にからめ取られる危険性もある。
(CAPITAL4月15日号より転載)

Wednesday, March 29, 2006

破産法という名のセーフティーネット

▼破産関連の調査会社ランドクイスト・コンサルティングによると、米国の昨年1年間の自己破産の申請件数は204万3535件。前の年より31%増、49万568件も増えた。実に53世帯に1世帯の割合で米家計が破産申請した計算になるという。
▼破産申請が急激に増えた大きな原因のひとつは、昨年10月の破産法改正を前に駆け込み申請が急増したためとされるが、日本の感覚からするとやはり驚く。
▼米国は昨年、個人貯蓄率がマイナス0・5%となった。1933年の大恐慌以来、72年ぶりのマイナスだ。なるほど米国人はクレジットカードを使い過ぎて破産する人が多いのだろうか?
▼1983年から89年の間の南カリフォルニアで申請された自己破産について調べたジョージ・コーセン弁護士によれば、自己破産の大きな原因は医療費と離婚だった。クレジットカード破産は破産者全体のわずか1%以下。「あれは本当に神話なのです」とコーセン弁護士。
▼また、ハーバード医科大学のデビッド・ヒメルスタイン医師らが行った最近の調査でも、米国内で破産した人のおよそ半数が医療費の高騰が原因で破産していたことが分かった。
▼米国の破産法は弱者救済のセーフティネットという側面が大変強いのである。しかし、27年ぶりの破産法改正で、たとえば申請後5年間で6000ドルを返す能力のある者は債務免除を申し立てる破産法第7条の申請が出来なくなった。
▼強力なロビイング活動を展開し、改正法案を押し進めたのはもちろんカード会社である。手厚い社会保障がない分、個人破産や倒産しても何度でもやり直すことの出来た米国も変わりつつあるのだろうか。
(CAPITAL4月1日号より転載)

Wednesday, March 08, 2006

自動車王国の終焉

▼自動車といえば米国を支えてきた基幹産業である。自動車を誰が発明したかは論議のあるところだが、自動車を一般庶民のものにし、ライフスタイルを大きく変えたいわゆるモータリーゼーションの波を起こしてきたのは米国である。
▼米国は鉄道すらも駆逐する勢いで車社会を作り上げてきた。1万以上のパーツからなる自動車は関連分野が鉄鋼から石油業界まで及び、20世紀の経済発展は自動車なしには語れない。
▼その自動車の世界最大の会社ゼネラル・モーターズ(GM)が経営不振で喘いでいる。GMは北米での販売不振などから業績低迷が長期化、大規模な工場閉鎖や人員削減による再建策を打ち出しているが、来年には販売台数でトヨタに抜かれるのは確実という。世界最大級の大企業の行く末を危ぶむ声は日増しに高まっている。
▼GMは利益率の低いからと小型車開発を怠ってきたとよく指摘される。目先の利益を優先させ、大型のSUVや高級車ばかりに力を入れてきた。小型車戦略はスズキとの提携でという方針だったが、ここにきてスズキ株も売却する。
▼もうひとつの米大手自動車会社、フォード・モーターも経営が低迷している。原因はGMとほぼ同じと言われるが、両社が苦しんでいることに医療保険や年金負担があげられる。
▼ブッシュ大統領は「(従業員や退職者との)約束を守るかどうかは企業次第だ」と述べ、政府による救済に否定的な認識を示した。ほとんどの国では医療や年金は国の事業である。
▼また「私は自由貿易主義者だ」とした上で「市場開放がこの国にとって非常に重要」と重ねて指摘し、日本車の輸入規制などを事実上否定した。
▼クリントン政権と比べずいぶん冷たい対応であるが、主張に一貫性はある。GMやフォードに日産を再生させたカルロス・ゴーンのような人物が現れるだろうか。(西)
(CAPITAL第7号より)

Saturday, February 25, 2006

検索サイトあってのインターネット

▼インターネットは、ポルノなどかなり規制されているというが、それでも表現の自由を体現したようなメディアである。
▼デンマークの新聞が掲載した預言者ムハンマドの風刺漫画問題は他国へも飛び火して、掲載した新聞が出るとすぐさまイスラム教徒らの抗議行動が起きているが、この風刺漫画もインターネットで世界中でいつでも見ることができる。
▼だがインターネットでの情報発信は、それが検索サイトで誰にでもすぐに見つけられるようでなければマスメディアとは呼べないかも知れない。
▼グーグルなど米国大手検索会社が、中国のインターネット情報規制に協力していると米議員らの怒りを買っている。
▼例えば「天安門広場」で画像検索すると、グーグル米国版は人民解放軍による民主化運動弾圧の映像が表示されるが、中国版では記念撮影する観光客などしか示されない。グーグルは、中国当局が検閲対象にする情報を中国語検索サービスでは表示していないのだ。ヤフーにいたっては、中国当局に提供した利用者情報が基で反体制派らが投獄されたことが明らかになった。
▼米国のネット企業が中国の言論弾圧に加担しているというわけだが、中国側は、規制対象はテロやポルノなど「ごくわずか」だと譲らない。また、中国はネット利用者が米国に次ぐ世界2位で今後も急増が見込まれ、米検索大手各社は批判を浴びようが中国市場からの撤退はないと言われている。
▼テレビ・新聞などのいわゆる既存マスメディアは行政・司法・立法に次ぐ第四権力と言われるが、インターネットが第五権力とすればその軸となるのは検索サイトなのだろうか。まだまだインターネットは黎明期のようである。(西)
(CAPITAL06年2月27日号<第6号>より)

Wednesday, February 08, 2006

ジニ係数と階級社会

▼所得格差の程度を示す指標にジニ係数というものがある。税や社会保障を通じた再分配後に全員の所得が同額になる状態を0、分配されず1人が全所得を独占している状態を1とし、所得分配の不平等さから貧富の差の大きさを示すものとされる。
▼経済協力開発機構(OECD、加盟30カ国)が04年発表した加盟国のジニ係数では、日本は0.314で、平均の0.309を上回った。日本はジニ係数が上昇傾向にあることがはっきりしている。OECDの中で日本より不平等な国は数カ国しかない。
▼その数カ国に米国が入っている。米国は中国とほぼ同じなのである。中国は開放経済で急成長する臨海都市部と内陸の農村部の貧富の差が激しい。米国は移民を多く受け入れ続ける多民族国家であり、高い能力を発揮する人には高い報酬を支払い、それを軸に全体として高い経済成長を続ける形態を取っていると言える。
▼小泉政権の「改革路線」は弱肉強食の格差社会を拡大させているという批判がある。一方で、持続ある成長のためには競争が必要で、競争のためにはある程度の格差がある方が好ましいと考える日本人が増えているとも言われている。
▼安倍官房長官は「勝ち組、負け組を決して固定化させてはならないし、階級社会をつくっていくことになってもいけない。谷底に落ちるようなことのないセーフティーネットをちゃんと作っていく。みんなが助け合っていくというのが日本の伝統だ。これはしっかり守っていく」と語っている。
▼確かに日本は米国とは違う国。その国に合った、よりよい国作りを願いたい。(西)
(CAPITAL06年2月10日号<第5号>より)

Friday, January 27, 2006

ホリエモンと「光クラブ事件」

▼ホリエモンこと堀江貴文ライブドア社長が逮捕された。容疑は証券取引法違反などだが、「ライブドア」ショックは海外市場にまで及び、逮捕は海外メディアも取り上げた。
▼昨年のニッポン放送株買収劇では、「人の心は金で買える」などと言い放つ堀江氏をどう見るかで、新しい日本人か古い日本人かが分かるとまで言われた。賛否両論のホリエモン。小泉首相すら見境もなく改革のシンボルとして衆院選出馬を促した。ホリエモンというキャラクター自体、高株価を狙った計算づくの演出だったのか。
▼堀江氏は日本のビル・ゲーツという声があった。超一流大学を中退し会社を起こし、他社に嫌われながらも、あらゆる手を使い短期間に巨大企業にしていったところは確かに似ている。
▼しかし、一方で「光クラブ事件」の山崎晃嗣を連想させるという声もあった。まだ戦後の混乱が続く昭和二十三年、山崎は東大在学中に高利貸しの闇金融「光クラブ」を設立する。既成の価値観にとらわれない徹底した合理主義者の山崎は短期間で大成功を収めるが、物価統制法と銀行法違反の疑いで逮捕される。堀江氏も同様の道を辿っている。
▼「光クラブ事件」は債務返済に行き詰まった山崎が青酸カリ自殺をして終わる。まさか堀江氏はそんなことにはならないとは思うが、ライブドア関係者が一人、すでに自殺した。
▼これは日本版エンロン事件である。ルールなき市場経済は社会自体を壊していく。ルールの隙をついたつもりで会社を急成長させてきた堀江氏だが、今度は市場のルールに裁かれる。  (西)
(CAPITAL06年2月1日号より)

Friday, January 13, 2006

キムチと鳥インフルエンザ

▼年明け早々、トルコでも2人が鳥インフルエンザ死亡した。七月にロシアで開かれる主要国(G8)首脳会議(サンクトペテルブルク・サミット)で、鳥インフルエンザ拡大防止を主要議題として取り上げることが決まった。
▼アジアで猛威をふるう高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型)はロシアや欧州にも拡大しつつある。米国も例外ではない。国を超えた協力策、新ワクチン開発、途上国へのワクチン供給などが論議される見込みだ。
▼12月31日付ワシントンポスト紙が、最近米国でキムチの売り上げが急増していると報道した。本紙も置いているバージニア州フェアファックス市のロッテ・プラザ・インターナショナル・マーケットでは、16オンスのビン詰めキムチが急に売れるようになった。常連の韓国人客は大きいガロン詰めを買うのが普通だ。スーパーHマートでは1袋7.99ドルのキムチの販売量が前年比55%も増えた。米国東部地域にキムチを卸しているニューヨークのキム・チー・プライド社は前年に比べ20%の販売増となったという。どうも一般の米国人が買い求めるようになったらしい。
▼同紙によると、米国でキムチ販売量が増加したのは、ソウル大カン・サウック教授チームが昨年初め、鳥インフルエンザに感染したニワトリ13羽にキムチ抽出液を注射したところ11羽が回復したという研究成果を発表、これがインターネットを通じ米国に広まったためという。
▼その韓国では、ソウル大・黄禹錫(ファン・ウソク)教授による胚性幹細胞(ES細胞)の研究結果がすべて捏造だったことが発覚した。国民のヒーローだった科学者が一転して、処分が検討され、教授を全面的にバックアップしてきた韓国政府も面目丸潰れである。
▼インターネットの普及とグローバル社会の到来で、病気や不確かな情報もあっという間に広がる。少し前の薬害エイズや牛海綿状脳症(BSE)などでもそうだが、専門家しか分からないことが多すぎる現代にあって、科学者は決してどこぞの利害で働いてはならない。病気は恐いが、不確かな情報に振りまわされないようにしたいものだ。個人的にはキムチは好きだが。(西)
(CAPITAL06年1月15日号より)

Sunday, January 01, 2006

犬と人間

▼今年は戌年。戌(犬)と人間とは3万年来のつき合いがあるといわれ、野生のオオカミが家畜化されたのだという。オオカミの持つ外敵に対する警戒心、獲物を捜す能力などから、人間が狩猟生活をしていた時代から番犬、猟犬として重宝されてきたらしい。
▼日本では縄文時代、犬が人間と同じように埋葬されている。縄文人は犬をとても大事にしたらしい。それが変わるのは弥生時代。日本では犬を食べた時代もあった。
▼現在は犬の特性を生かし、警察犬や盲導犬、介助犬や災害救助犬など各方面で大活躍している。一般家庭では主にペットとして飼われ大変な人気だ。高齢者や心を閉ざす人にセラピードッグも注目されている。
▼犬はたいへん人間になつくが、実はこれはオオカミだった時の群れの本能に基づくもので、人間に服従し、慕うようになるのは人間を群れのリーダーとして認めるからだという。
▼付き合い方を間違えると犬は自分をリーダーと、人間を群れの一員とみなし、立場が逆転してしまう。いわゆる権勢症候群(アルファシンドローム)だ。
▼服従心を忘れた犬はやがて飼い主への愛情もなくす。犬には誠意をもってしつけ、愛情を注ぐことが共生する幸せになるようだ。    (に)
(CAPITAL06年1月1日号<第2号>より)