▼宮内庁長官、富田朝彦氏(故人)が書き残した昭和天皇の発言メモは大きな波紋を呼んだ。
▼88年4月28日付メモによると、昭和天皇は「私は或(あ)る時に、A級が合祀され、その上、松岡、白取までもが」「だから私(は)あれ以来参拝していない。それが私の心だ」などと語ったと記されている。明らかにA級戦犯合祀(ごうし)に不快感を示したものだ。
▼昭和天皇は戦後、靖国神社を8回参拝し、75年11月が最後だった。当時から昭和天皇が参拝をしなくなったのは、A級戦犯の合祀が影響しているのではないかとの指摘があったが、その指摘は正しかったことになる。
▼小泉首相は「心の問題だから。強制するものでもない。誰でも自由だ」と何の影響もないことを述べた。政府筋は「皇室は政治利用しないのが一つの見識だ」としたが、中国で反日暴動が起きれば、数千億円単位の損害が出るのではと懸念する経済界はじめ、靖国参拝批判勢力には間違いなく追い風となった。
▼一方で、自民党内にある中国、韓国が反対だから靖国参拝は止めようという「消極論」を民主党の小沢代表は一蹴、A級戦犯は戦争責任があり戦死者ではないことから、合祀(ごうし)は誤りだったとの考えだ。
▼安倍官房長官が、首相の靖国神社参拝について、「(A級戦犯は)国内法的には犯罪者でないと国会で答弁されている。講和条約を受け入れたから参拝すべきでないという論議は、全くトンチンカンだ」と述べた。
▼天皇の不快感メモが明らかにしたのは、靖国問題が、「心の問題」として封印できるものではなく、外国からの圧力の問題でもなく、まず、国内における「歴史認識」の問題としてあることだ。
▼国立追悼施設推進派だった福田元官房長官は総裁選レースから降りたが、日本遺族会会長である自民党の古賀誠元幹事長靖国神社にA級戦犯の自発的な分祀(ぶんし)を促す決意を改めて表明した。
▼首相が8月15日に靖国に参拝したとしても、A級戦犯が合祀された中での、最初で最後の終戦記念日首相参拝となりそうである。
(CAPITAL8月15日号<第16号>より転載)
No comments:
Post a Comment