Saturday, December 13, 2008

チーム・オブ・ライバルズ

▼オバマ氏が勝利した米大統領選についてニューヨーク・タイムズの有名コラムニスト、トマス・フリードマンは「1863年にペンシルベニア州ゲティズバーグの戦いで大体のケリのついた南北戦争は145年後に同じ州の投票箱で完全に終了した」と書いた。
▼ブルーステート(民主党)とレッドステート(共和党)など、米国はまだ南北戦争の続きをやっているかのような対立の様相を示していたが、「国民融和」を掲げるオバマ氏の勝利で決着がついたというわけだ。
▼だが、8年にわたるブッシュ政権の負の遺産ともいうべきイラク戦争、金融危機、世界同時不況など難題が山積みである。
▼オバマ氏は選挙期間中から「民主党や無党派層、共和党を含む組閣人事を行うつもり」と言明していた。3日、商務長官にニューメキシコ州のビル・リチャードソン知事を指名。これで、副大統領となるバイデン、国務長官に指名したヒラリー・クリントン上院議員と合わせ指名争いのライバルだった3人を政権に引き入れた。
▼オバマ氏はリンカーン第16代大統領を大変尊敬しており、愛読書のひとつに歴史学者ドリス・グッドウィンによるリンカーンの評伝『政敵が集まった政権(Team of Rivals)』がある。
▼大統領となったリンカーンは、予備選のライバルだった4人をそっくり主要閣僚(国務、財務、司法、陸軍長官)に起用する奇手を用いて、南北戦争という未曾有の国難を切り抜けたのである。
▼オバマ氏はこの「チーム・オブ・ライバルズ」に倣ったようだ。またゲーツ国防長官を留任させるなどオールスター布陣に閣内対立の懸念もあるが、「今は、世界で指導的立場にある米国にとり、21世紀の諸課題に立ち向かうための新たな夜明けの時期にある」と意に介さない。
▼ともすればイエスマンで固めたがる政権や組織は一度参考にするといいかも知れない。(武)

Tuesday, December 02, 2008

元厚生次官宅襲撃事件と裁判員制度

▼「おれがクビになったのは社会が悪いからだ。この国を動かしているのは官僚だ。官僚を何とかしてやろうと、職を失ったころ思った」
▼元厚生次官宅襲撃事件(4面に関連記事)で出頭した小泉毅容疑者(46)の弁である。34年前の「保健所に殺された犬の仇討ち」と主張するなど不可解な部分はいまだ多いが、不遇をかこった自分の社会に対する恨みからであることは間違いないだろう。
▼元厚生次官の次は文部次官が狙われるとインターネットで噂が広がった。29日、ブログに「文部科学省の局長らを一週間以内に順次、自宅で刺殺する」などと書き込んだとして、東京都に住む無職前田記宏容疑者(25)が脅迫容疑で逮捕された。
▼前田容疑者は東大卒業後、職がなく「理想を持って勉強してきたが、教科書の内容と違う現実があるのを知り文科省に詐欺をされたと感じた」などと供述しているという。
▼6月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件(7人死亡、10人負傷)の加藤智大容疑者(25)は「勤務先のリストラ計画や処遇に不満があった。世の中が嫌になった。誰でもよかった」と供述した。
▼これらに共通するのは、社会や体制(官僚)に対する社会的脱落者の恨みだ。社会はこれにどう向き合えばいいのか。
▼そんな折、日本で来年5月より裁判員制度が始まる。最高裁は28日、各地裁の裁判員候補者名簿に載ったことを知らせる通知書を全国の約29万5千人に発送した。
▼有権者から無作為に選ばれた原則6人がプロの裁判官3人と審理するが、対象は殺人、強盗致傷など最高刑が死刑、無期懲役などの重大事件だけである。
▼今の日本の市民社会を否定する「テロ」を、これからは一般市民が裁くことになる。

Thursday, November 13, 2008

南北戦争に終止符か

▼これほどまでに興奮を呼んで勝利した大統領候補はいただろうか。オバマ候補の勝利を祝福する著名人の声を紹介しよう。
▼政界からは、「昨日は紛れもなく非常に大きな前進だ。アフリカ系米国人として、特に誇りに思う」(ライス米国務長官)。破れたもののマケイン候補の弁は清々しかった。「米国は常に、努力する人に機会を与える国だ」。
▼オバマ支持者が多い映画界からは「今ほど自分の国を誇りに思ったことはないし、米国人であることを誇りに思う」(レオナルド・ディカプリオ)、「喜びで涙が止まらない。深い失望の時代に、希望がよみがえった」(マイケル・ムーア監督)。なお「セックス・アンド・ザ・シティ」主演のサラ・ジェシカ・パーカーはDCで選挙活動をボランティアで手伝ったそうだ。
▼音楽界も多い。敢えて黒人を外して二人。「歴史的な夜を共有出来て幸せです」(マドンナ)、「今まで公に選挙に関与したことはないが、オバマ氏という人間に鼓舞させられた」(ジャスティン・ティンバーレイク)。
▼テレビ界では「米国が正しいことをしたと思う。人々の意識に大きな変化が起こった」(オプラ・ウィンフリー)。スポーツ界からは、「(亡くなった)父はずっと、有色人種の大統領を夢見ていた」(タイガー・ウッズ)。
▼友好国は割愛する。宿敵イランは「あなたが国民の真の利益と正義を優先させることにより、名声を得ることを希望する」(アハマディネジャド大統領)。変わったところでは「イスラムの教えを共に信じよう」(イラクのアルカイダ系グループ「イラク・イスラム国」)。
▼「オバマ氏の勝利はケニアにとっての勝利でもある」と言ったのはオバマ氏の父親の故郷ケニアのキバキ大統領。6日を国民の祝日にしてしまった。
▼日本人もあげておこう。「ブッシュさんと違って環境問題にも熱心だし、頑張って欲しい」(選挙当日ニューヨークにいた女優の藤原紀香)。

Sunday, November 02, 2008

米国で暴動が起きる?

▼あまり表立って報道されていないようだが、10月1日より、州兵ではなく米陸軍の実戦部隊が米国内に展開されることとなった。名目はテロ対策だが、陸軍は市民が起こすかも知れない暴動の鎮圧訓練をするという。
▼米国史上初の黒人大統領が誕生するかも知れない大統領選を控え、全米各地で不穏な動きが広まっているのは事実だ。
▼ノースカロライナ州の大学のキャンパスに20日、頭を撃たれた黒い子グマの死骸が放置されていた。子グマにはオバマ氏のポスターが添えられた。オレゴン州の大学では、オバマ氏に似せた段ボール製の等身大人形が縛り首の状態で木にぶら下げられた。テネシー州では、銃不法所持などの疑いで逮捕された白人の若者二人が、オバマ氏の暗殺を計画していたことが27日、明らかになった。
▼一方、24日には、共和党のマケイン候補陣営の女性運動員(20)が、オバマ候補の支持者とみられる黒人男性に暴力をふるわれ、金を奪われたなどと虚偽の通報をする事件が起きた。
▼オバマ氏優位のまま大統領選を迎えるが、それだけにもしオバマ氏が破れれば黒人暴動の可能性も取沙汰される。オバマ氏が当選してもしなくても何かが起きる可能性があると、治安当局は警戒を強めているという。
▼これだけでない。大恐慌以来ともいわれる金融危機の問題だ。こちらの方がより深刻かも知れない。JPモルガン・チェース銀行の全米各地の支店や事業所には、白い粉入りを含む30通を超す脅迫状が送り付けられた。
▼ウォール街や大企業のエリートたちを救うために何故、庶民のなけなしの税金が使われなければならないのか、不満を募らせる者は少なくはないはずだ。
▼不況はすでに始まっている。貧困、失業、差別—。連邦政府への憎しみが渦巻き、武装したネオナチやミリシア(民兵)も多数存在する米国。多様な米国民をまとめ上げ希望の持てる社会にすることが次期大統領に求められている。(武)

Sunday, October 19, 2008

金融資本主義の終焉か 

▼東京証券取引所一部の株式時価総額は、3日から10日までの一週間で約66兆円が消えた。欧米やアジア、新興国の株価も軒並み大幅下落、実体経済を脅かし、世界同時不況の様相が鮮明になった。
▼この1年で世界各地の株式市場で消えたお金は時価総額にしておよそ21兆ドル(2200兆円)以上。07年の世界全体のGDP(国内総生産)約54兆ドル(約5800兆円)の40%に匹敵する。一日1ドル以下で生活している10億人も入れた世界人口66億人で割ると、一人当たり約3300ドル(約35万円)を失ったことになる。
▼米国は金融安定化策による7千億ドル(約75兆円)の公的資金負担を決めた。米国一人当たり2300ドル、一世帯当たり6千ドルの税負担になるが、救済される米大手企業500社のCEO(最高経営責任者)の平均報酬は07年だけでも1280万ドル(約13億7千万円)、金融危機のきっかけをつくった米証券大手5社の経営者の過去5年間の報酬は計30億ドル(約3200億円)だ。
▼映画監督のマイケル・ムーア氏によれば、米富裕層上位400人の資産が、1億5千万人分の資産の半分に相当しており、救済経費は富裕者に負担させろと主張している。
▼米国がモノ作りを捨て、金融を国家戦略とした80年代以降、ドルの印刷機はフル回転し、過剰流動性が世界中で定着した。各国に一時の繁栄をもたらしたもののバブルはすべて崩壊した。
▼現在、世界の株式市場の規模は約7200兆円、債券市場が約5500兆円、そしてデリバティブの総額は約5京円である。実体経済(GDP)の10倍、決済に必要な金額の100倍ものお金が動いている。
▼お金はしばしば血液にたとえられる。血液の流れがよければ経済活動は活発になる。しかし体(実体経済)あっての血液(お金)なのだ。私たちは実体経済無視どころか、それを破壊する金融資本主義(=マネーゲーム)の終焉に立ち会っているのかも知れない。

Tuesday, September 30, 2008

アメリカ後の世界

▼現下の金融危機について、多くの専門家が「世界大恐慌以降最大の危機」とまで語っている。ドルの一極支配体制の終焉や米政府の財政破綻まで取り沙汰されている。加えてイラク戦争の泥沼化、イラン問題、米ロの確執といった不安定要素がうごめいている。唯一の超大国の没落を指摘する声は多い。
▼米国はどうなっていくのか。これに答えたものとして、「ニューズウィーク」国際版の編集長であるファリード・ザカリア氏が”The Post-American World”(アメリカ後の世界)という本を今春出している(徳間書店より邦訳予定)。
▼同氏は、米国の没落ではなく、他の国が台頭していると認識すべきで、「アメリカ後の世界」は「かつてない平和と繁栄ムードに満ちた国際社会」になると言う。実際、80年代以降、戦争は減少し組織的暴力は50年代以降で最低レベル、世界人口の8割の国々で貧困が減少しているという。
▼にもかかわらず何故、人は現在を恐ろしい時代だと感じるのか。それは情報革命で情報量が爆発的に増大したこどが大きいと言う。中国やロシアがアメリカに敵対姿勢を取ったところで、その脅威の程度は知れている、BRICS(ブリクス=ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興国は、過去の大国(米英仏独日など)に比べれば穏健であり、既存の国際秩序の中で豊かさをもとめようとしていると指摘する。イスラム原理主義も影響力を増してはおらず、冷静に対応すべきと主張する。
▼米国が影響力を行使できる範囲は狭まるが、米国の強さの源泉は移民であり、内向きになってはいけない。国際社会のプレイヤーが増えて多様化していることへの新しい国際協調の枠組みが必要で、米国が世界の先導役であり続けるなら、ルールの順守が欠かせない。そうすれば21世紀は再び「アメリカの世紀」となるというものだ。
▼世界の多極化を肯定的に捉えたものだが、イラン侵攻、米ロ冷戦など、力に頼った方法で米国の優位を保とうとする勢力もあるのではなかろうか。

Sunday, September 14, 2008

いつまで経っても暫定政権?

▼洞爺湖サミットに参加したブッシュ米大統領は、よもや福田首相が自分より先に辞めるとは思いもしなかっただろう。内閣改造をしておいて、いきなりの辞任である。
▼前の安倍首相に続き、福田首相も1年ほどで政権を放り投げた。国のトップである首相の立場は、確かに本人でなければ分からないプレッシャーもあるだろうが、無責任のそしりは免れない。二世議員の脆弱さを指摘する声も多い。
▼もっとも支持率がどんなに低迷しても、任期いっぱいは辞めることはない米大統領に比べれば、退陣が簡単に出来る日本の議院内閣制は、刷新や出直しがやりやすいというメリットもある。
▼しかしここはやはり、解散し民意を問うべきだろう。だが、いま選挙をしては惨敗すると見込み、自民・公明与党はずるずると無理な政権を続けている。
▼ポスト福田の自民党総裁選には最有力の麻生太郎幹事長(67)はじめ5人も立候補した。与謝野馨経済財政担当相(70)といった重鎮や、石破茂前防衛相(51)、石原伸晃元政調会長(51)といった若手、さらに女性の小池百合子元防衛相(56)だ。なにやら賑やかな総裁選に目を奪われがちだが、あくまでも自民党関係者による選挙である。
▼与謝野氏が総裁・首相になれば、小沢・民主党との大連立も可能との噂もある。その先に待っているのは憲法改正だろう。しかし、ここはやはり人気のある麻生氏が選ばれ、麻生内閣で次の解散・総選挙に臨む可能性が高い。ちなみに麻生氏も二世議員である。
▼選挙に勝てる状況になるまではと、いつまで経っても「暫定政権」、たらい回しである。これでは有権者無視だ。憲法改正よりも先にやらなければならないことは多い。自民・公明にそれが出来なければ、さっさと政権交代すべきだろう。(武)

Friday, September 05, 2008

大統領選のダイナミズム

▼コロラド州デンバーの7万5000人収容の巨大競技場は超満員となった。米史上初の黒人大統領を目指すオバマ上院議員の指名受諾演説を聞くためだ。
▼共同の記事から参加者の声を拾ってみよう。オバマ氏の指名について「生きているうちにこんなことが現実になるとは思わなかった」(六十代の黒人男性)、昔は白人の隣でハンバーガーを食べることもできなかったと言う。二十代のある白人女性は「オバマ氏は私たちの世代を政治に目覚めさせた」と語る。
▼「米国よ、我々は今よりもっと良い国のはずだ」。オバマ氏が呼び掛けるたびに、巨大なスタジアムが地響きを上げて揺れた。
▼だがオバマ氏にひところの勢いはない。オバマ氏の訴える「変革」はあいまいという声は多い。外交・安全保障問題に疎いとされ、副大統領候補に、この方面に強い民主党の重鎮バイデン上院議員(65)を選んだが、ワシントンの政治にどっぷりつかっている人物でもある。
▼一方、共和党大統領候補のマケイン氏は、ロシアのグルジア侵攻で直ちにロシアを批判するなど存在感を示した。副大統領候補には女性のペイリン・アラスカ州知事(44)を選んだ。ペイリン氏は民主党指名争いに敗れたヒラリー上院議員(60)を讃え、「彼女が破ろうとしたガラスの天井は頑丈だったが、われわれは砕くことができる」と、女性初の副大統領の意義を強調、ヒラリー支持者の取り込みを図っている。
▼もっともペイリン氏は人工妊娠中絶に反対など保守派であり、外交経験は皆無、女性だからといってヒラリー支持者を取り込めるかは未知数だ。宗教保守派に不人気のマケイン氏をカバーするために担ぎだされたと見るべきだろう。
▼それにしても1年前には想定できなかった正副大統領候補4人である。ここに感じるのは米国の民主主義のダイナミズムであり、どうやらそれは人々の控えめな思惑を超えて前進していくもののようだ。(武)

Thursday, August 14, 2008

米ロ新冷戦勃発

▼平和の祭典である北京オリンピック開会式直前に、グルジアの南オセチア自治州で戦争が始まった。グルジアのサーカシビリ大統領は「ロシア軍はグルジアを侵略した」と非難、米国のニュースを見ていると、いかにも大国ロシアが一方的に軍事介入したかのようである。
▼しかし、停戦合意を破り戦争を始めたのはグルジア軍である。グルジアからの分離独立を主張する親ロシアの南オセチア自治州の州都ツヒンバリ周辺をグルジア軍が攻撃したのが端緒だ。ロシアは平和維持軍が攻撃を受けたため、反撃に出たのが実際だ。
▼南オセチアは92年の国民投票で9割以上が独立を支持して以降、憲法や国会が制定され、大統領もいて事実上独立している。だがグルジアはもちろん、国際社会は認めてこなかった。南オセチアの独立を阻止したいグルジアだが、何故この時期にグルジアは進撃したのか?
▼それは今年2月のセルビアのコソボ自治州の独立宣言だろう。欧米諸国は相次いで承認した。実質的に独立していれば、独立は可能との前例が出来たのだ。
▼グルジアが焦ったのはそこだろう。皮肉なことに「国際秩序の崩壊を招く前例となる」と、コソボの独立に反対したのが南オセチアを支援するロシアである。
▼シェワルナゼ前大統領を追放したサーカシビリ大統領ら現政権は、投資家のジョージ・ソロスなど米国の後ろ盾で成立したいわば米国の「傀儡政権」。今回のグルジア軍の南オセチア進攻も米国の承認のもと行われたと思われる。
▼背後にあるのは資源や経済、地政学的な面も含めた米ロの覇権争いであり、事実上の米ロ代理戦争なのである。米大統領選も絡んでいる可能性もある。そこで、サルコジ仏大統領が事実上の仲介役としてモスクワを訪問することになったわけである。
▼だがいまさら米ロ冷戦の再来でもないだろう。この新冷戦は旧大国の起死回生を狙ったあがきに思える。(武)

Sunday, August 03, 2008

「タクシー・ドライバー」とヘイト・クライム

▼マーティン・スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」という1976年公開の傑作映画がある。ベトナム戦争の帰還兵で不眠症に陥り、マンハッタンのタクシー運転手となった男(ロバート・デ・ニーロ)が主人公だ。
▼男は失恋を経て、腐敗したこの街を浄化してやると次期大統領候補射殺を目論むが失敗する。その代わりでもないが13歳の売春婦(ジュディー・フォスター)を救うべく、ヒモやチンピラ、客を多数射殺する。
▼テネシー州ノックスビルの教会で7月27日、男(58)が銃を乱射し2人が死亡する事件が起きた。警察によれば、男は散弾76発を用意、「大量殺人を目論み、自身も生きて教会を出るつもりはなかったとみられる」という。
▼事件のあった教会はプロテスタントの一派、ユニテリアン派で、人種差別撤廃、女性や同性愛者の権利向上などリベラルな活動で知られていた。警察は「職を得られないいらだちをリベラル派に向けた犯行」と指摘、「憎悪犯罪(ヘイト・クライム)」と見ている。
▼6月8日の7人が死亡した葉原通り魔事件はどうだろう。加藤智大容疑者(25)は恋人や友達が出来ず、また派遣社員としての不満を募らせていた。彼の矛先はゲーム好きの自身ともなじみのある秋葉原に集う一般市民だった。
▼タクシー・ドライバーでは主人公は支配の象徴でもある大統領候補を狙い、次に犯罪人たちを射殺した。だが、ノックスビルの教会や秋葉原で犠牲になった人たちは権力者でも犯罪者でもない。憎悪犯罪というが彼らは方法以前に標的自体が間違っている。池田小事件同様、実際には「弱いもの」を相手にしているに過ぎない。
▼犯罪人たちを射殺した映画のタクシー・ドライバーは、本人の意図とは裏腹に町の「英雄」となる。だが無差別テロに走る過激派と同じく、間違っても加藤容疑者らが英雄になることはない。

Friday, July 18, 2008

支持率低迷の首脳らが集まったG8

▼G8=主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が終わった。閉幕を受け実施した共同通信社の全国電話世論調査で、福田内閣の支持率は26・8%と、前回6月調査の25・0%に並ぶ横ばいとなった。サミットによる政権浮揚効果はなかった。不支持率も依然50%台と高い水準のままだ。
▼26・8%で国の代表と言えるのかという声が上がりそうだが、サミット参加国の他の首脳はどうだろうか? サミット開幕時にAFPが各国の報道機関の世論調査をもとに8カ国首脳の支持率を一覧にして報道した。これによると福田首相22%(内閣支持率、産経新聞・フジテレビ6月14〜15日)、ブッシュ米大統領が23%、ブラウン英首相が25%、ハーパー・カナダ首相32%、メルケル独首相36%、サルコジ仏大統領38%、ベルルスコーニ伊首相59%、メドベージェフ露大統領73%である。
▼福田首相が堂々の最低なのだが、ブッシュ大統領、ブラウン首相も3割に届いていない。世論調査だけでは判断は出来ないが、これで国の代表と言えるのだろうか。
▼サミットではこれといった大きな成果はなかった。最大の焦点であった2050年までに世界全体で温室効果ガスを半減させる地球温暖化対策の長期目標については、世界全体で「共有することを目指す」との表現にとどまった。京都議定書に続く新国際枠組みの交渉は前途多難だ。
▼中国やインドが加わらなければ実効性に欠けると主張してきたブッシュ大統領の意見の方が通った格好だ。その通り、すでにG8で世界的な政策を決めること自体が時代にそぐわなくなっているのだ。
▼世界の勢力地図は大きく変わった上に、たった8カ国で、しかも支持率3〜4割の首脳らが集まって何を決めるというのか。支持率低迷にあえぐ福田首相の人気取りにも使えなくなったことが、その限界を如実に物語っていると言えよう。 

Monday, June 30, 2008

拉致解決より国交正常化が先?

▼日朝協議で北朝鮮が拉致被害者の再調査と、よど号ハイジャック犯の引き渡しに向けて協力すると表明、日本政府は制裁緩和を打ち出したが、この裏には大きな米朝の動きがあった。六月二十六日、北朝鮮は六カ国協議合意に基づく核計画申告書を議長国の中国に提出、ブッシュ米大統領は同日、北朝鮮に対するテロ支援国家指定解除を議会に通告すると表明した。
▼拉致被害者家族には「裏切られた」と失望の声が広がっている。米国にテロ国家指定解除をしないよう働き掛けることを町村信孝官房長官に要請したばかりだったからだ。
▼北朝鮮に対し「拉致解決なくして国交正常化なし」(小泉元首相)で臨んできた日本だが、拉致問題は「究極的には日朝二国間問題」(米政府高官)であり、世界の関心は核問題の方である。米国がしびれを切らして動き出してしまった。
▼北朝鮮は拉致問題は終了したという立場だったが「再調査」とは何か? 拉致被害者は救出されるのか? 「我々が知らないところで侵入した日本人がいれば本人確認をした上で、罪を問わず日本に返す」とは北朝鮮が以前から言ってきたことだ。よど号犯についても、実は目新しいものではない。
▼核問題が解決したら、日本と米国は北朝鮮と国交正常化することが二〇〇五年の六カ国協議で合意されている。国交正常化を待ち望んでいる国は多い。北朝鮮のウラン、レアメタルなどを狙う米、ロシア、エネルギー資源を開発したい中国、貿易拡大で景気浮揚を狙う韓国と、日本を除く六カ国協議の各国経済界はすでに活発に動き始めている。そして、六カ国協議は「北東アジアの集団安全保障体制へと発展する」(ライス国務長官)という。
▼こうして見ると、日本だけが後手に回っている感は否めない。ここに来て拉致解決より国交正常化が先になったということか。対米従属で済んだ時代が終わる中、日本の外交の真価が問われている。

Monday, June 16, 2008

秋葉原・通り魔事件

▼日本で米国並みの無差別大量殺人事件が起きた。8日午後0時30分過ぎ、東京・秋葉原の歩行者天国で、男が通行人をトラックではねた後、ナイフで刺す無差別殺傷事件がおき、男性6人と女性1人が死亡、10人が負傷した。
▼米国では大量無差別殺人が断続的に起きているが、日本でまたしても起きた。2001年の8人の児童が殺害された大阪教育大付属池田小事件と同じ日であったのは偶然なのか? 9日付のワシントン・ポスト紙は「現場には血だまりが残り、まるで戦場のようだ」と報じる記事を掲載した。
▼犯人は静岡県裾野市の派遣社員加藤智大(ともひろ)容疑者(25)。職場での不満があったというが、殺すのは「誰でもよかった」と供述、薬物や精神疾患などはなく、計画的犯行であることが分かってきている。
▼それにしてもトラックで乗り付けたとはいえ、銃を使ったわけでもなく大人相手に何故17人もの死傷者を出したのか。駆け付けた警察官も刺されているが、警察はすぐに止められなかったのだろうか?
▼もっとも現場では、状況をのみ込めない人も多く、映画の撮影やゲームの安売りにでも客が殺到したのかと思った人も多数いたらしい。
▼犯人は警察官ともみあい、最後は拳銃をつきつけられ観念した。この間、わずか数分、東西約100メートル、南北約70メートルの中での出来事だった。
▼驚くべきは、犯行に使ったサバイバルナイフの高い殺傷力である。包丁ではこうはいかないはずだ。銃と同じように管理・規制が必要ではないか。
▼鳩山法相は「昨日も大事件があったが、人の命を奪うような人にはそれなりのものを負ってもらおう」と死刑制度の必要性を訴えたが、相次ぐ死刑執行でも殺人の抑止力にはなっていないことが、また分かっただけではないのか。
▼池田小事件事件では「早く死刑にしてくれ」と犯人の宅間守はうそぶき、望み通り早期に死刑になった。今回は世界に冠たる電気製品とアニメなど日本のポップカルチャーで知られるアキバで起きた。闇は深い。(武)

Sunday, June 01, 2008

四川大地震と東京

▼5月12日に中国を襲った四川大地震。中国国務院(政府)は27日時点で、地震の死者は6万7183人、負傷者36万1822人、行方不明2万790人と発表、1976年に約24万2千人が死亡した唐山地震以来、最悪の地震となった。
▼依然、余震も続いており、地震で破損した千を超す一般ダムの決壊も懸念されている。「唐家山・土砂ダム」では全面決壊の恐れが生じた場合、下流の130万人を避難させることを地元当局が決めたという。
▼今回、中国のメディアはチベット争乱の時のような規制はなく、現地からの報道を次々に流した。中国政府の対応も早く、発生当日夜には温家宝首相が現地入りし「地震災害対策本部」を設置している。国家の威信をかけた聖火リレーも一時中止した。
▼中国政府によると、国内外からの支援金、支援物資は26日までに308億7600万元(約4600億円)相当に達したという。▼残念なことは日本の国際緊急救助隊が現地入りしたのは、地震発生から5日目だったこと。生存率が72時間を超えると極端に下がることはよく知られている。
▼人災ではないかと指摘されているのが学校である。役人へのわいろが横行し「手抜き工事」の粗末な作りの学校校舎が相次いで崩壊、ちょうど授業中だっため、多くの生徒児童の生命が奪われた。
▼核施設の被害も心配だ。中国環境保護省は、四川大地震で計50個の放射性物質に安全上の問題が生じ、35個は回収したが、まだ15個が瓦礫に埋まったままと報告した。ただ、安全な状態で放射能漏れは起きていないと強調した。
▼学校などの耐震問題や核施設の懸念は日本にとっても無関係な話ではない。東京・横浜は、ミュンヘン再保険会社(ドイツ)による災害リスク指数は710で、2位のサンフランシスコの167、3位ロスの100から見ても群を抜く世界一の危険都市なのである。

Friday, May 16, 2008

死刑制度

▼「もし死刑にできないなら、今すぐ犯人を社会に戻してほしい。自分の手で殺します」
▼これは、山口県光市で99年、当時18歳と1か月だった元少年(27)に妻子を殺害された会社員本村洋さん(32)の言葉である。
▼本村さんは、犯罪被害者の権利実現を目指す運動を開始、死刑存置派の先頭に立った。一方で、死刑反対論者として知られる安田好弘弁護士が主任弁護士になったことから、光市母子殺人事件は死刑の是非を巡って論議を呼ぶ裁判ともなった。そして先月22日の差し戻し控訴審で、広島高裁は一審の求刑通り、元少年に死刑の判決を言い渡した。
▼死刑制度は犯罪抑止力にならなく、残虐な報復行為、国家による殺人だいう声は強く、死刑制度廃止は世界的な流れである。91カ国が完全廃止、135カ国が事実上の廃止で、過去10年間に死刑執行をした国は61カ国である。
▼06年でもっとも死刑が多かったのは中国で1010人(実際は8千人とも)、以下イラン177人、パキスタン82人と続き、米国は6位の53人、日本は4人だった。先進国・民主主義国で廃止していないのは米国(州によっては廃止)と日本くらいである。
▼米国では昨年12月にニュージャージー州が死刑を廃止し、廃止州は13州になった。昨年9月には薬物注射による死刑が憲法で禁じた残虐な刑罰に当たるかどうかの審理を連邦最高裁が開始、死刑制度のある州は執行を見合わせていた。しかしながら連邦最高裁が先月、違憲性を認めない判断を示したのを受け、ジョージア州が6日、死刑を執行した。
▼国連人権理事会で9日、対日作業部会が開かれ、最近になって死刑の執行、判決例が多くなっている日本に対し、フランス、オランダなど10カ国以上が死刑の廃止を求めた。日本では09年5月までに裁判員制度が始まる。一般市民が他者に対し死刑を下すかどうかを判断する日がすぐそこまできている。
(武)

Thursday, May 01, 2008

五輪聖火リレー騒動

▼26日、長野市内を駆け抜けた北京五輪の聖火リレー。大勢の警察官に取り囲まれて走った聖火ランナーたちに笑顔はほとんどなかった。
▼沿道は全国から集まった中国人留学生らが振る中国国旗とチベットの旗でぎっしり。「中国頑張れ!」の歓声と「チベットに自由を」という叫び声が同時に飛び交った。
▼ランナーのタレント萩本欽一さんがJR長野駅前を通過した時、沿道から発煙筒のようなものが投げ込まれた。「おばあちゃんや子供とハイタッチをしようと思っていたのに、できなかった。悔しかった」と萩本さん。
▼最終ランナーを務めた北京五輪マラソン代表の野口みずき選手は「政治が絡んで残念」と述べた。長野県警はトマトを投げ付けるなどしてリレーを妨害したとして、威力業務妨害容疑などで6人を逮捕した。
▼抗議行動を行った国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(本部パリ)のメナール事務局長は、抗議行動を容認した日本政府の民主的な対応を称賛した。「日本人は他のどの民主主義国よりもうまくやった」。元左翼活動家のメナール氏は派手なパフォーマンスと信念の強さは誰にも負けない。
▼一方、中国国営通信の新華社も「沿道の観衆は情熱的な拍手で祝意を示した」と伝え、聖火リレーを評価した。中国当局がチベットに弾圧を加えたのは、昨年9月に「チベット青年会議」が「実力闘争路線」を決定したことをつかみ、一気に独立分子を叩くためだったと言われている。かつてはCIAの援助もあったダライ・ラマ14世だが、今は「高度な自治」と「非暴力」を唱えるノーベル平和賞受賞者である。
▼聖火リレーを始めたのはナチス・ドイツだというのは皮肉だが、ドイツやメキシコ、ソ連など、五輪を開催した独裁国家は10年以内に崩壊し民主化している。さて、中国の共産党独裁はどうなるだろうか。(武)

Monday, April 21, 2008

ドキュメンタリー映画「靖国」

▼ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映が危機に陥っている。日本で活動する中国人映画監督、李纓さん(44)が、靖国神社をめぐる人々の姿を、十年をかけ撮影。釜山国際映画祭で上映されたほか、三月の香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなど前評判が高かった。
▼これに対し、稲田朋美参院議員(自民)ら一部国会議員が事前試写会を要求、三月十二日に国会議員八十人が参加した試写会が開かれた。稲田議員らは「検閲」ではなく映画製作費のうち七百五十万円を文化庁が助成したことを問題にしたが、文化庁は「助成金支出は妥当」と回答した。
▼試写会を見た新右翼の鈴木邦男は「これは『愛日映画』だ」としたが、週刊新潮が「反日的」と論評すると、上映予定の映画館に対し右翼団体の街宣車による抗議活動や電話による公開中止などの圧力があったという。このため、4月公開を予定していた映画館すべてが「周辺の商業施設に迷惑をかけることになる」として上映を中止ないし延期。渡海文部科学大臣は「あってはならないこと。非常に残念」と発言。
▼表現の自由が危惧される中、大阪の「第七芸術劇場」など東京を含む北海道から沖縄まで全国二十一の映画館で、五月以降に上映されることになった。
▼これで上映かと思いきや、有村治子参院議員(自民)が事情を聴きにいったところ、中心的出演者で刀匠の刈谷直治さん夫妻が「出演シーンの削除を希望している」という。さらに靖国神社が、境内での撮影許可の手続きが守られず、事実を誤認させるような映像が含まれているとして映像の一部削除を求める通知をした。
▼李纓監督は、戦争が日本人の心に残した混乱とその背景を描こうとしたというが、まさしく靖国を巡っては日本人はひどく混乱するようだ。(武)

Monday, March 31, 2008

北京五輪ボイコット

▼チベット自治区ラサの暴動は中国国営通信の新華社の報道では死者十九人としているが、インド北部ダラムサラのチベット亡命政府は二十四日、百三十人と発表した。
▼負傷者や逮捕者数でも大きな隔たりがあり、一体、どっちを信じればいいのか。第三者的なメディアの報道が望まれるが、中国当局は海外メディアを退去させ、取材を拒否している。
▼中国内ではインターネットも制限されている。ユーチューブにアップされていた警官隊が市民を追い回す映像はカットされた。一方で、中国テレビでは漢族の店を襲うチベット人の様子が映像で何度も流されたという。
▼人権団体「フリー・チベット・キャンペーン」(本部ロンドン)には、何者からか二分おきに電話がかかってきた。学生組織「スチューデント・フォー・ア・フリー・チベット」(本部ニューヨーク)の幹部にも同じような電話があり、同じく中国語で罵倒してきたという。さらに電子メールでコンピューター・ウイルスも送られてきた。
▼チベット関係の団体だけでなく、現地からの報道を続けているAFPもウイルス攻撃を受けた。「一部の暴徒の仕業」と主張する中国当局だが、これをそのまま鵜飲みにする人はいないだろう。
▼虐殺の続くダルフールで中国がスーダン政府を事実上支援している問題で、北京五輪の大手スポンサーの会議が四月に行われるが、新たにチベット問題が議題にあがるという。企業イメージが損なわれるとの懸念の声も出てきている。
▼とはいえ、五輪ボイコットは世界経済の足を引っぱりかねないため大きな声とはなっていない。ボイコットしたからといって何かが解決するわけでもないだろう。しかし、フランスのサルコジ大統領は二十五日、北京五輪ボイコットについて「あらゆる選択肢が開かれている」と述べた。状況によってはフランスが開会式に参加しないこともあり得ると明らかにした。(武)

Thursday, February 28, 2008

27年目の「共謀罪」

▼1981年にロサンゼルスで起きた銃撃事件で、殺人容疑などで元会社社長、三浦和義容疑者(60)がサイパン島で逮捕された。
▼三浦被告は銃撃事件で日本で起訴され、1審東京地裁は氏名不詳の実行犯との共謀を認めて有罪にしたが、2審は「共犯者は全く解明されていない。三浦被告には共犯者を見つけ、謀議を完了する機会がなく、謀議の痕跡がなく、共犯者に報酬を支払った事実が全くない」として逆転無罪、最高裁で確定した。
▼米国の法律では殺人罪に時効はなく、ロサンゼルス市警は米検察当局と相談した結果、同じ事件で再び罪に問われることがない「一事不再理」には抵触しないと判断。過去に前例もあるという。
▼ロス市警は2、3年前から本格的な捜査に着手していた。きっと新しい証拠でもあるだろうと思いきや、市警は「ノーコメント」。
▼逮捕状によれば、容疑第1項は妻一美さん(当時28)殺害の実行、第2項は共謀罪で、殺害に先立つ「殴打事件」から銃撃に至る一連の殺害計画を共謀した「共謀罪」だという。
▼ロス市警は、日本の検察も三浦元社長を起訴する段階で十分な証拠があったはずだとし、日本に共謀罪がないことが無罪判決につながったとの認識を示した。
▼藤本哲也中央大法学部教授(犯罪学)によれば、カリフォルニア州法では、犯罪の謀議が行われ、さらに犯罪の実行に資する何らかの行為が伴えば、実際に犯罪が行われなくても共謀罪が成り立つ、「何らかの行為」には犯行現場の下見や凶器を渡したりすることなどが該当するという。
▼ロス市警は新しい証拠ではなく既存証拠だけで共謀罪を成立させるつもりなのか? 日本で無罪とされた三浦容疑者は米国で有罪となるのか。日本でも論議されている共謀罪について考える機会ともなりそうである。

Wednesday, January 30, 2008

「第二のケネディ」

▼民主党大統領候補指名争いでオバマ上院議員の人気が止まらない。二十七日のサウスカロライナ州予備選挙で55%の支持で圧勝、ヒラリー上院議員とビル・クリントン前大統領夫妻の「黒人候補烙印(らくいん)」戦略は裏目に出たようだ。
▼二十八日には一九九三年にノーベル文学賞を受賞した米国の黒人女性作家、トニ・モリスンさんがオバマ上院議員への支持を表明。モリスンさんは白人のビル・クリントン前大統領を「黒人より黒人的」「米国初の黒人大統領」と評したことで知られるが、今回はオバマ氏支持に回った。
▼モリスンさんは「あなたは他の候補にないものを示してくれている。それは年齢や経験、人種や性別とまったく関係ない独創的な構想力だ」とオバマ氏を評価、新しいアメリカを創造する人物への期待感を述べている。
▼オバマ氏から連想されるのは故ケネディ大統領であろう。故ケネディ大統領の実弟で民主党の有力者のエドワード・ケネディ上院議員はオバマ氏を支持と表明、NBCテレビは「大統領選の転換点になる可能性がある」と報じた。まさに「第二のケネディ」への期待がかかる。
▼しかし、黒人には圧倒的な支持のあるオバマ氏だが白人票の取り込みはヒラリー氏に遅れを取っている。ヒラリー氏と拮抗する中、キャスティング・ボートはヒスパニック票にあるとの指摘は多い。
▼二十二州で一斉に党員集会と予備選挙が行われる二月五日のスーパーチューズデーでは、四百四十一人と最多の代議員数を持つカリフォルニア州のヒスパニックの割合は36%、代議員数二百八十一人のニューヨーク、百八十五人のイリノイ州はともにヒスパニックが15%を占める。
▼ヒラリー、オバマ両候補の拮抗ぶりからスーパーチューズデーでも決まらないのではという分析が優勢になってきた。オバマ候補の登場で、これまでの予備選のゲーム理論が変わったようだ。(武)

Tuesday, January 01, 2008

嘘をついた鼠

▼ 今年の干支(えと)は子(ね)、鼠(ねずみ)である。十二支の中で何故ねずみが最初なのか。俗説では、神さまは十二支の動物を決める時、正月に自分の所へ来た順にすることにしたという。牛は足が遅いからと早めに出発し、真っ先に門前に着いたが、牛の頭に乗っていた鼠が飛び降り、ちゃっかり一番になったという。
▼十二支で言えば最初に戻ったわけだが、折しも昨年から今年にかけて世界のリーダーが相次いで交替している。
▼昨年は5月にフランスにサルコジ氏(52)大統領が、6月に英国はブラウン首相(56)が誕生、12月にはオーストラリアでケビン・ラッド新首相が決まり、韓国では李明博(イミョンバク、66)氏が大統領に当選した。
▼ロシアでは三月に大統領選がある。三選禁止のためプーチン大統領の続投はない。日本も解散・総選挙含みの年となる。そしていよいよ十一月には米大統領選がある。こちらも三選禁止のため八年に及んだブッシュ政権も終わりを迎える。
▼なんとなく二十一世紀に入ってから、あるいは9・11同時多発テロ以降と言ってもいいが、一巡目が終わり二巡目に入った感じだ。
▼鼠が牛に乗っかってきて一番になったのは、ずる賢い話だが、まあ世渡り上手ということで大目にみよう。しかし鼠は、十二支に入れてもらおうと思った猫に、一月二日に集まることになってると嘘をついている。
▼それで今でも鼠は、十二支に入れなかった猫に追いかけ回されているという。やはり嘘はいけない。嘘をつかないことは民主主義の大原則のひとつだろう。世界の新リーダーたちも嘘をつくことなく、世界を平和と繁栄へ導いていって欲しいものだ。(武)