Monday, December 17, 2007

民主主義の証

▼来年行われる米大統領選の候補者は全国的な知名度からいって共和党はジュリアーニ元ニューヨーク市長、民主党はヒラリー・クリントン上院議員でほぼ決まりだろうと思われていたのが、どうも様子が違っている。
▼年明け早々、最初に次期大統領選の党員集会が開かれるアイオワ州の地元紙が12月2日伝えた同州の最新世論調査によれば、共和党はハッカビー前アーカンソー州知事、民主党はオバマ上院議員がそれぞれトップに立った。
▼11月28日にフロリダで行われた共和党候補による討論会では、ロムニー前マサチューセッツ州知事がジュリアーニ氏の中絶や同性愛の権利容認に加え、移民政策を攻撃。特にジュリアーニ氏が市長時代に不法移民の子供の教育を認めたことなどを非難し、「不法移民には、法律を守る市民以上の特権を与えてはならない」と訴えた。
▼ところが、これに異論を唱えたのがハッカビー前アーカンソー州知事だ。「親のしたことで子供を罰するような国」にすべきではないと言い切り、注目を浴びた。
▼アイオワ州でトップだったロムニー氏は最近の調査で牧師出身のハッカビー氏に逆転された。ロムニー氏が信仰するモルモン教を「カルト宗教の一種」と嫌うキリスト教右派の支持がハッカビー氏に流れたためとみられる。
▼泡沫候補だと思われてきたハッカビー氏が躍進してきた。オバマ氏もここまで人気が高まるとは思われていなかった。
▼ビル・クリントン元大統領も出馬当初は元アーカンソー州という小さい州の知事に過ぎず、あまり注目されなかった。米大統領選は予断を許さないが、それが民主主義の証なのかも知れない。

Saturday, December 01, 2007

パニック2008?

▼依然としてサブプライムローン問題に端を発する金融不安が続き、不況突入の懸念が消えない。米連邦準備制度理事会(FRB)は二十日、〇八年の米実質成長率は前年比1・8〜2・5%と予想、七月に発表した2・5〜2・75%との予想を大幅に下方修正した。
▼クリスマス商戦は年間消費の二割を占める。消費の行方を占うクリスマス商戦の幕開けである感謝祭翌日の通称「ブラックフライデー」は問題になることなく過ぎた。だがこれはウォルマートや大手電気店などが今年は特別にクリスマスセールを前倒し、11月初めから開始したために過ぎない。
▼なにより、当初一千億ドルと言われたサブプライムの関連損失が実は一兆ドルではないかとも囁かれているのだ。リーマン・ブラザース、シティグループ、メリルリンチなどの本決算がこれから控えている。八七年の株価暴落、ブラックマンデーの再来もないとは言い切れない。
▼利下げはもうないと言われていたが、年内にもう一段の利下げをしないと不況に突入するという声もある。だが利下げによるドルの下落は信用不安となり、中東諸国などのドルペッグの見直しにつながりかねない。基軸通貨としてのドルの地位をなくす可能性すらある。
▼米シンクタンク「トレンド・リサーチ・インスティテュート」のジェラルド・セレンテ所長は、ドルの価値は十分の1まで下がり、金相場が1オンス二千ドルにまで高騰するかもしれない」という予測までしている。
▼英オブザーバー紙のコラムリスト、ウィル・ハットン氏によれば、現下の金融危機は三十年に一度の大規模なもので、市場原理を重視する英米中心の自由主義経済の時代は終焉を迎えるだろうとのことである。(CAPITAL#48号より転載)

Thursday, November 15, 2007

偽装相次ぐ食品業界

▼日本人はいつからこんなに嘘つきになってしまったのだろう。「偽装」が止まらない。牛肉、シジミ、地鶏、タケノコ、そうめん、ファストフード、和菓子などなど。産地偽装や消費期限改ざんなど食品の不正発覚が止まるところを知らない。
▼特に赤福(三重)や船場吉兆の菓子店(福岡)などの製造日偽装や賞味期限改ざんは、伝統と信頼を誇る老舗や高級店だっただけに与えたショックは大きい。「もったいない」という話ではない。船場吉兆はもちろん、秋田の比内鶏(ひないどり)の偽装は、食文化への裏切り行為である。
▼なぜこれほどまでに偽装が立て続けに発覚しているのかといえば、それは内部告発なのだという。今年一月の不二家の期限切れ原料使用の報道後、さらに六月のミートホープ(北海道)の牛肉偽装発覚後、内部告発が急増したという。八月の石屋製菓(北海道)の「白い恋人」の賞味期限改ざんも保健所への内部告発がきっかけだ。

▼だが、赤福は昨年から内部告発があったにもかかわらず、三重県の二度の立ち入り検査でも不正を確認できなかった。老舗や大手食品会社と監督する行政側とのなれ合いを疑われても仕方ないだろう。
▼偽装は食品衛生法違反や不正競争防止法違反(虚偽表示)という立派な犯罪である。社長の逮捕や営業停止に追い込まれた会社も出ており、結局は自らの首を締めるだけだ。
▼昨年はマンション耐震強度偽装が世間を騒がせたが、今年は食品の偽装だ。日本経済の「失われた十五年」という停滞の中、リストラや格差拡大だけでなく、利益第一主義によるモラル崩壊が起きていたわけである。

Friday, November 02, 2007

拉致問題と日米関係

▼10月26日付のワシントンポスト紙は、テロ支援国指定解除を米政府が北朝鮮側に約束していたとしたら、「太平洋において最も親密な同盟国(日本)を裏切ることになる」との公電をシーファー駐日大使がブッシュ大統領に送ったと報じた。
▼第一期ブッシュ政権で朝鮮半島平和担当特使を務めたジャック・プリチャード氏は、すでに8月のニューヨークのコリア協会での講演で、今年一月の米朝ベルリン会談でテロ支援国家指定解除が秘密裏に合意されたと明かしていた。
▼2003年に米国は北朝鮮をテロ支援国家指定の理由に拉致問題を加えたが、これは当時の小泉首相とブッシュ大統領の「特別な関係」があったからという。
▼だが昨年10月の北朝鮮の核実験後、ブッシュ政権が米朝対話重視に転換。核開発放棄と引き換えの指定解除が再び米政府の切り札となった。
▼障害になってきたのが日本の拉致問題である。2月下旬にチェイニー米副大統領が来日し、安倍首相(当時)との会談で「日本人拉致問題の『解決』とは何か」と拉致問題の「定義」をただしたが、明確な回答はなく、その後も拉致問題は何の進展もなかった。
▼日本の国際政治誌「サピオ」10月10日号は、「安倍首相(当時)は9月9日、シドニーで、ブッシュ大統領から「日本の北朝鮮政策はあまりにも国際常識を欠く。いつまで拉致問題で足踏みしているのか。我が国は北との国交正常化をためらわない。それでよろしいか」と迫られた安倍首相(当時)は「(インド洋の海自による)給油支援は必ず継続する。そのかわり北朝鮮政策の転換はもう少し待ってほしいと懇願した」という。給油支援に職責を賭けると述べた理由はこれだったわけだが、いずれにせよ米国からは突っぱねられ、辞任を決意する。
▼拉致問題への毅然とした態度で登場した安倍政権は拉致問題で足下をすくわれた。福田政権は拉致問題の「進展」を探り始めた。(武)

Friday, October 19, 2007

サブプライムローンとクリスマス

▼サブプライムローンとは、住宅価格の上昇と低金利を前提に、本来なら支払っていくのが困難と思われる低所得者に夢のマイホームを持てる住宅ローンだった。
▼だが前提が崩れた。住宅市場の不振と金利上昇が重なり、返済不能が続出した。ここで終わっていればまだよかったかも知れない。
▼住宅ローン会社はリスクを分散するためローン債権を小口化して売却。このため債権を担保とした証券をはじめ各金融商品も返済不能続出とともに価格が急落。そこに世界中でお金がたぶつく中、ヘッジファンドや金融機関、年金基金などが高リスクにもかかわらず相次いで購入した。
▼三日、リード上院内総務(民主党)らは、来年にかけて約二百万世帯が返済不能・差し押さえで自宅を失う恐れがあり、「これは国家的な危機だ」と対策強化を訴えた。各金融会社もサブプライムローンの赤字、撤退やリストラなどを相次いで発表した。
▼この問題は、他の証券などと組み合わせた金融商品もあるため損失規模を確定しにくいところにある。一体どうなっているのか購入者もよく分らないのだ。そのため米景気失速ばかりか、世界同時株安、世界同時不況に突入する恐れに世界中が震撼した。
▼ところが、五日のニューヨーク株式市場のダウ工業株三十種平均は一時、前日比150・23ドル高の一万4124・54ドルに達した。これは取引時間中での過去最高値だ。サブプライムローン問題はそれほどで深刻ではないと判断されたのか。
▼確かに、同日発表された九月の雇用統計(速報、季節調整済み)によると非農業部門の就業者は前月と比べ十一万人増加、雇用改善の目安十万人を四カ月ぶりに上回った。だが、雇用統計ほどおおざっぱで当てにならないとの専門家の指摘もある。
▼クリスマス商戦前に消費後退を招くわけにはいかない。そんな声すら聞こえてきそうな株価の動きが、「破綻」の先送りではないことを願うばかりである。

Friday, September 28, 2007

ジーナ・シックス事件

▼その高校の校庭には、白人生徒が集まることから「ホワイト・ツリー」と呼ばれる樫の木があった。白人生徒たちの休憩場所となっていた。黒人生徒は使えなかった。
▼昨年の夏、ある黒人生徒の一人がそこに座る権利を学校に求め、実際にそこに座った。すると翌日、この木に絞首刑用のロープ三本が吊るされていた。かつて米国では、黒人をリンチし木に吊るしていた。黒人差別の意味は明らかだった。
▼校長は木を切り倒し、犯人の白人生徒三人に退学勧告したが、教育委員会がこれを差し止め、三日間の停学処分に変更。これに黒人生徒らは憤慨、乱闘や放火まで発生し、昨年十二月四日、乱闘の被害者となった黒人をからかった白人生徒に黒人生徒六人が暴力をふるい、逮捕された。
▼「私がペンを一走りさせればお前ら(黒人)の人生なぞ消し去ることが出来る」と豪語したことのあるJ・リード・ウォルターズ検事は、未成年の高校生を第二級殺人未遂罪で訴追、テニスシューズを「致死性のある武器」とまで主張した。
▼審理が進むにつれ「人種差別による不正裁判だ」と検察当局を非難する声がわき起こり、全米へと広がった。公正な裁判を求める著名運動では三十八万人が集り、全米有色人地位向上協会(NAACP)は六人の裁判費用捻出のための基金を設立、歌手のデビッド・ボウイが一万ドル寄付した。
▼そしてある審理の日、人口三千人の町は、それをはるかにこえる数万人のデモ隊で埋め尽くされた。ラッパーのモス・デフやUGKのバン・Bの姿もあったという。学校は休校、商店街も店を閉めた。しかしこの日の審理で、事件当時十六歳であるにも関わらず九カ月以上拘留されたままのマイケル・ベルの保釈は認められなかった。
▼これがルイジアナ州の小さな町、ジーナで去る九月二十日に起きたことである。この事件は通称「ジーナ・6(シックス)」と呼ばれ、今後も予断を許さない。

Sunday, September 16, 2007

日本の二大政党制が始まった

▼ついに安倍首相が辞意を表明した。改造内閣スタート直後の首相の辞意表明に日本全国に激震が走った。海外メディアもいち早く速報した。
▼就任以来、「政治とカネ」を巡るスキャンダルや失言で閣僚の辞任が相次ぎ、年金問題もあって7月の参院選では与野党が逆転する歴史的敗北。内閣改造を行ったが、またすぐに閣僚が辞任した。普通ならとっくに辞めているところだが安倍首相はなかなか辞めようとしなかった。今回、辞意に至ったのは、どうやら十一月で切れるテロ対策特別措置法延長問題のようである。
▼首相はテロ特措法に基づく海上自衛隊のインド洋での給油活動を継続できなければ退陣する決意を示していた。一方、民主党の小沢代表は八月、シーファー駐日米大使に対し「直接的に国連安全保障理事会からオーソライズ(承認)されていない。活動には参加できない」と延長反対の考えを明確に示していた。
▼北朝鮮から、六カ国協議はどうせ米国の言うがままなのだから日本は出る必要はないと言われたことは記憶に新しい。米国はその北朝鮮の核問題で拉致問題を曖昧にしたまま北への「譲歩」を続けている。下院では「従軍慰安婦決議」が成立した。日本人の中には小沢代表の毅然とした発言に溜飲を下げた人もいたかも知れないが、小沢氏は別に「反米」を掲げたわけではなく、民主党の「国連中心主義」の原則を述べたに過ぎない。
▼あれほどの支持率低下でも辞めなかったのが、テロ特措法を巡り野党と対立したからといって辞めるとは、「責任放棄」(古賀誠・自民党元幹事長)と言われても仕方ない。これまでの「対米従属」ばかりが日本の外交ではなくなってきているのだ。
▼与党・自民党が圧倒的に強かった時代は終わった。日本で二大政党制が始まったことに、「戦後レジーム(体制)からの脱却」を掲げた安倍首相自身がついていけなかったようだ。

Thursday, August 30, 2007

歴史の教訓

▼—ある晴れた朝、何千人もの米国人が奇襲で殺され、世界規模の戦争へと駆り立てられた。我々を攻撃したその敵は自由を軽蔑し、米国や西側諸国が自分たちを蔑んでいると信じ、我々への怒りを心に抱き、自爆攻撃に走った——
▼誰しもがアルカイダと9・11テロのことだと思うだろう。しかしこれは1940年代の軍国日本と真珠湾攻撃のことだという。22日、カンザスシティーで開かれた在郷軍人会年次総会でのブッシュ大統領の演説の冒頭だ。
▼「狂信的な神道」の存在などから「日本に民主主義は本質的に相容れないと言う者もいた」とまで語った。大統領は大正デモクラシーのことを勉強していないようだ。
▼そして、「しかし今日、日本は世界でも偉大な自由社会の一つとなった」と述べ、「我々は中東でも同じことができる」と結んだ。要は、戦前の日本をアルカイダと同じようなものと見なし、日本を打ち負かしてよりよい国にしたように、米軍は勝利するまでイラクからは撤退すべきではないという結論である。
▼朝鮮戦争やベトナム戦争の意義にも言及。「ベトナムからの米国の撤退によって、何百万人もの無実の市民が苦しみ—」と語った。退役軍人の前とはいえ、ソ連もナチスも大日本帝国も、ベトナムもアルカイダも、また無差別テロも民間施設を避けた奇襲も、神道もイスラム教もほとんど一緒くただった。
▼さすがにベトナムは、外務省報道官が翌日「(戦争は)民衆にとって正義の戦いだった」と述べ不快感を表明した。日本は、米下院の「従軍慰安婦」決議に反対しワシントンポスト紙に意見広告まで出した人たちも含めほとんど反応がなかった。
▼歴史から教訓を学ぶことは大切だが、歴史を歪曲化の上に単純化して、賢明な判断が出来るとはとても思えない。
(CAPITAL#42より転載)

Sunday, August 12, 2007

参院選と靖国参拝

▼昨年の八月十五日は小泉首相(当時)が靖国神社を参拝し、大騒ぎとなったが、今年は安倍首相を筆頭に十六人の閣僚全員が見送るらしい。
▼一九五〇年代半ば以降、終戦記念日に閣僚が大量参拝するようになったが、一人も参拝しないというのは初めてではないかとみられる。
▼塩崎恭久官房長官は「私の信条でいつも決めていること」、伊吹文明文部科学相は「宗務行政の所管大臣として、公平を期すため」、溝手顕正防災担当相は「行ったことがない」。麻生太郎外相、高市早苗沖縄北方担当相、柳沢伯夫厚生労働相らは外遊など公務で参拝できないとした。菅義偉総務相、長勢甚遠法相、高市氏らは既に参拝済みだからという。
▼そんな中、山本有二金融担当相は「公的立場の参拝は歴史的経緯からアジアの政治的安定を害する」とはっきりと指摘、公明党の冬柴鉄三国土交通相は「宗旨が違うから」としつつ、「信教の自由だが、枢要な地位にある人には隣人の気持ちを配慮する気持ちは必要」と述べている。 
▼下院で「慰安婦決議」が可決したばかりのワシントンを訪れた小池百合子防衛相も参拝しない意向を表明。中国、韓国との関係改善ばかりでなく米国の顔色も伺ったのか。
▼参院選での自民敗北の原因として「年金問題」や閣僚の失言・不祥事がよく挙げられるが、「憲法改正」や「戦後レジュームからの脱却」を旗印にした安倍政権に国民は「ノー」と応えた、少なくとも憲法改正などは安倍政権下ではやって欲しくないと答えたのが今回の参院選ではないだろうか。
▼安倍首相は祖父・岸信介を尊敬しているといわれるが、岸信介とは、戦前は満州に進出し対米開戦に同意、戦後は日米安保を強行採決した「昭和の妖怪」であることを国民の多くが思い出したのか。参院選の結果は靖国や慰安婦問題とも関係があったのかも知れない。(武)
(追記:高市氏だけは8月15日、靖国参拝した)

Saturday, July 28, 2007

ウォールストリートジャーナルの買収劇

▼メディア大手ダウ・ジョーンズ(DJ)は16日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)をルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションに総額約50億ドルで売却することで暫定合意した。百年以上DJを支配してきたのオーナー、バンクロフト一族は売却を了承するかどうか近く最終決断を下す。
▼一族三十数人のうち高齢のメンバーを中心に身売りへの反対意見が強いという。マードック氏は編集活動への介入で知られ、買収後にDJの報道姿勢が実際に中立を保てるかどうか疑問に思われているからだ。
▼オーストラリア生まれのマードック氏率いるニューズ社は、FOXテレビ、映画会社20世紀フォックス、英紙タイムズなどを傘下に収める巨大メディアグループ。愛国的なイラク戦争報道など「右寄り」で知られ、大統領選に出馬するヒラリー・クリントン上院議員ら民主党候補はFOXの討論会には出ない。
▼ニューヨーク・タイムズは「バンクロフト家にはWSJを発行し続ける道を模索して欲しい。それが無理であればWSJを保護してくれるような安全な買い手を見つけて欲しい」と指摘し、ニューズ社にだけは売却しないよう求めた。
▼マードック氏がWSJに目をつけたのは、ほとんどの新聞のネット版が過去の記事などを除き基本的に無料の中で、WSJは年間99ドルの利用料を徴収、それでも約80万人が契約しているからと言われる。また、DJの経済金融サービスを活用することで経済報道を強化、10月にはDJとWSJが持つコンテンツをフルに活用した経済専門のテレビ局が開局する。
▼インターネットの普及で、新聞の発行部数減少に歯止めがかからない。DJはメディア業界の競争激化によりこのまま単独での生き残りが難しいと判断したようである。
▼ネットの普及と新聞の低調から始まったメディア再編は大手による寡占へと加速しているが、経済面での「偏向報道」めいたことが起こらないことを祈るばかりである。(武)

Thursday, July 12, 2007

バイオエタノールと貧困

▼日本でもバイオエタノールを混ぜたガソリンの発売が始まった。バイオエタノールは、車の燃料としてすでに普及が始まっている米国やブラジル始め、欧州諸国、アジアでは中国、インドが推進している。

▼バイオエタノールはトウモロコシや大麦、サトウキビなどの植物から生産されため、石油と違い枯渇することのない半永久的なエネルギーと言われる。また、燃焼の際に二酸化炭素が放出されるのは石油と同じだが、植物が成長する際に光合成で大気中の二酸化炭素を吸収するため、二酸化炭素の総量は循環して変化しないことから、地球温暖化の防止対策となるエネルギーとされている。
▼だがこれは食物の需給バランスを大きく変えてしまう問題がある。トウモロコシの値段はこの一年で倍になった。またトウモロコシはソフトドリンクの甘味料の原料やシリアルだけでなく、飼料として畜産や養鶏にも使われている。すると牛・豚・鶏肉、ハム、卵などは言うに及ばず、チーズ、牛乳、アイスクリームといった乳製品がその影響を受ける。日本でもハムやソーセージ、マヨネーズなどの値上げが始まっている。
▼メキシコでは昨年、主食のトウモロコシの値上げに抗議して全土でデモが起きた。DCの環境シンクタンク「アースポリシー研究所」のレスター・ブラウン所長は「八億人の自動車所有者と最も貧しい二十億人が、穀物を巡り争う事態になっている」と警告を発する。
▼深刻なのは、世界で最も貧しい人々が住んでいるアフリカのサハラ以南の国々だ。ここに住む2億人の大半は、収入の半分以上を食費に費やしており、穀物価格が上昇すれば、直ちに生きるか死ぬかの問題になる。現在でも、世界では八億五千四百万人が慢性的な飢餓状態にあり、毎日二万四千人が死んでいる。
▼キューバのカストロ国家評議会議長は、食糧を燃料に転化することで「資本主義は南の貧しい人たちの大量の安楽死を企てている」と批判したが、あながち的外れではない。

Friday, June 29, 2007

朝鮮半島の南北統一と投機筋

▼米国はマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮の資金送金問題を、米連邦準備銀行を経由させる超法規的措置で決着、ヒル国務次官補が北朝鮮を訪問した。
▼これに対しワシントン・ポスト紙は24日、ヒル国務次官補の訪朝について「米国は次々と北朝鮮に譲歩している」と批判した。北朝鮮が核放棄に向けた具体的な措置はまだ何も取っていないだから無理もない。
▼だが国際原子力機関(IAEA)実務代表団は平壌入り、寧辺の核施設稼働停止など2月の合意に基づく「初期段階措置」と次の段階の核施設「無能力化」に向け、北朝鮮との協議が始まった。
▼米国にとって北朝鮮の核やミサイルはそれほどの脅威ではない。しかし、核ミサイルがイランに流れるとなると話は別だ。イスラエルは本当に危なくなる。いわゆる「レッドライン」であるが、逆にそれさえ守られれば譲歩もする。
▼今回の6カ国協議が再開されるとすぐ、国際金融市場で北朝鮮の不良債権約4千億ウォン(約500億円)の取引が頻繁化、最近では米国や日本の投資家が買っているという。この債券は北朝鮮の債務不履行となった負債の一部を97年にBNPパリバ証券が証券に転換したものでスイス・フランやドイツ・マルク建て。額面1ドル当たり10セント未満の捨値だったのが20セント近くまで上昇しているという。
▼満期は2010年。南北統一がなされれば、韓国政府が肩代わりし額面払いをする可能性があり、ぼろ儲けになる。これに似た例として、過去にはベトナム債券の例があり、次にはキューバが控えていると言われる。
▼投資会社ゴールドマンサックスは2005年の段階で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)に続く経済発展地域として11の国(Next11)を挙げているが、その一つに、北でも南でもなく朝鮮(Korea)とある。気の早い投機筋では南北統一は織り込み済みなのだ。

Wednesday, June 13, 2007

ミサイル防衛(MD)と米露冷戦

▼冷戦は終わっていなかったのだろうか。ブッシュ米大統領が欧州七カ国歴訪を終えた。欧州にミサイル防衛(MD)を広める旅だったと言ってよいが、危うくロシアと衝突しそうになった。
▼米国は、チェコとポーランドに配備するMDについて「対ロシアではなく、対北朝鮮・イランだ」と再三にわたり主張してきた。だが、イラン最高安全保障委員会のラリジャニ事務局長は4日、「イランのミサイルは欧州に届かない。今年一番のジョークだ」と皮肉った。北朝鮮のミサイルが欧州に届くのを信じる者も皆無だ。
▼ブッシュ米大統領は7日、ドイツでプーチン露大統領と会談。プーチン大統領は、レーダー施設建設予定地をチェコから旧ソ連・中央アジアのアゼルバイジャンに変更、代替施設とすることを提案した。
▼なるほどアゼルバイジャンはイランのすぐ北だ。イランのミサイルが対象であれば、こんなに適切な場所もないだろう。これを拒否すれば、ミサイル防衛は対北朝鮮・イランという主張が嘘だということになってしまう。ブッシュ大統領は仕方なく評価し、両首脳は協議継続で合意した。
▼ロシアは、エリツィン大統領時代に米国の言う事を聞いたばかりに悲惨な経済状態となったことを忘れてはいない。石油会社を国有化し、資源大国として復活しつつある。これに対し米国は影で封じ込め政策を画策してきたとされる。03年のグルジアでバラ革命、04年のウクライナ・オレンジ革命、05年キルギス・チューリップ革命。これら旧ソ連諸国での動きは米国の後ろ盾があったと目されている。
▼欧州のミサイル防衛(MD)計画が対ロシア戦略であることは明白だろう。ブッシュ米大統領は5日、チェコのプラハで演説し、ロシア(中国もだが)との間に「大きな不一致」があるとの見解を表明し、ロシアは「国民主権を約束した改革が脱線している」と明言した。新たな米露冷戦が始まっている。

Wednesday, May 23, 2007

ブッシュ政権最後の花

▼ニューズウィーク誌(電子版)の最新世論調査結果によると、ブッシュ大統領の支持率は28%で同誌の調査で過去最低を記録した。これは1979年にテヘランの米大使館人質事件が起きたときのカーター大統領(当時)の支持率と同じだという。
▼ブッシュ大統領は今月頭にイラク駐留米軍の撤退を来年3月末までに完了させるという民主党主導の戦費支出法案に対し拒否権を行使した。イラク政策での拒否権行使は初めてで、9・11テロ以降、一丸となってアフガン、イラク戦争と邁進してきた米国の強硬な外交政策は終わりの兆しを見せている。
▼イラク開戦については、米中央情報局(CIA)のテネット元長官は先頃発売されたの自著「嵐の真ん中で」の中で、当初よりフセイン政権とアルカイダの関係は見つからなく、大量破壊兵器の確証もなかったことを暴露。もともとチェイニー副大統領が、9・11テロの発生前の2001年1月の政権発足時からイラク攻撃を計画していたことも明らかにした。
▼9日にはイラク開戦に踏み切った「盟友」ブレア英首相が退陣表明。開戦時から大統領を支持した主要国のリーダーのうち残っているのはオーストラリアのハワード首相だけとなり、イラク復興の「有志連合」の結束も弱まりつつある。
▼だが、一方で核開発阻止を理由としたイランへの空爆も計画が進んでいるされる。21世紀の世界にあって、戦争という方法はゲリラやテロの横行を見れば分かる通り、それで決着するとは言えなくなってきているにも関わらず、力への過信は根強い。
▼すでにレームダック(死に体)状態のブッシュ政権だが、中国の胡錦濤国家主席がブッシュ大統領を来年の北京五輪開会式に招待、首脳会談の可能性も検討しているという。平和の祭典五輪での米中首脳会談で、ブッシュ政権の最後の花が咲くだろうか。

Sunday, May 13, 2007

銃規制と米国社会

▼バージニア工科大学で犯人も含め33人死亡という銃撃による惨劇が起きた。一人の若者によって数時間で行われたため大事件となったが、米国は毎日平均33人が銃で死んでいる国である。日本の銃による年間死亡総数平均39人に比較すると驚くべき数字である。
▼そして今回も米国では銃規制の声は小さい。「他の学生も銃を持っていれば32人も殺される前に犯人を射殺できた」(FOXニュース)という声があったくらいだ。米国の異常性を物語る。
▼銃規制が進まないことが議論されると、決まって武器所有の権利を定めている米憲法修正第二条と、全米ライフル協会(NRA)の存在があげられるが、もともと米国人の多くが武器がないと安心して住めないと脅えている現状があるのだという。すでに銃が広く行き渡っているためだ。
▼2億丁の銃が出回り、毎年1万人以上が銃で殺され、自殺や事故を含めれば3万人以上が亡くなる米国。交通事故で年間4万人が亡くなるが、車をなくせという声がないのと同じく、ここまで浸透してしまった銃の規制は不可能なのか。
▼だが、米国では科学的検証と世論の高まりによって、30年前だったら考えられなかったような禁煙条例が全米に広がった例もある。喫煙と銃は個人の権利と死因という点で共通するものがある。
▼来年の大統領選に向け、民主党の候補を目指すヒラリー・クリントン、オバマ両上院議員のいずれも銃規制に積極的。共和党の候補でもジュリアーニ前ニューヨーク市長も一定の規制は必要との認識だ。銃規制は、これに反対だったブッシュ政権が終われば、銃規制に肯定的な民主党が上下院とも多数派でもあることから、大きく前進する可能性がある。
▼世界を見渡せば年間の死者が3万9千人に達するブラジルなど米国以上に銃による死者を出している国もある。人口比率ではベネズエラがもっとも高い(中東などの紛争地域を除く)。
▼銃規制をすればそれで済む問題ではないのも事実だ。カナダと米国の銃の普及率は同程度だが、カナダの銃による死者は10分の1以下という。
▼組織と個人ではあるが、ある種の「逆恨み」によって「アメリカ人」を大量に殺害した9・11テロをどこか想起してしまったのは私だけだろうか。銃の規制と共に、米国社会の病理を見つめ、これを改善していく方法も求められている。

Saturday, April 14, 2007

靖国神社A級戦犯合祀に国が関与か

▼東東条英機元首相らA級戦犯の靖国神社合祀は国際問題にまでなっているが、日本政府はこれまで「承知していない」との立場を取ってきた。
▼ところが、当時の厚生省が1958年頃から神社と協議を重ね、戦犯合祀を積極的に働き掛けていたことが、このほど国立国会図書館が公表した「新編 靖国神社問題資料集」で判明した。
▼資料によると、58年に厚生省は神社とA級を含めた戦犯合祀について議論。66年にはA級戦犯合祀のため名簿(祭神名票)を神社に送付、69年には神社側とA級戦犯について「合祀可」との見解を確認した。
▼安倍首相は「問題ない。合祀を行ったのは神社だ。(旧厚生省は)情報を求められ(資料を)提出したということではないか」と述べ、憲法の政教分離原則に抵触しないとの判断を示した。
▼だが、今回の内部資料は、国と靖国神社が一体となり、戦犯合祀に取り組んできたことを示している。国側が秘密裏に進めるよう積極的に働き掛けた様子すらかいま見える。
▼さぞや韓国や中国の反発は大きいかと思われたが、韓国の宋旻淳(ソンミンスン)外交通商相は麻生外相との会談の中で、「根本的解決にしっかり対応してほしい」とし、無宗教の国立追悼施設建設や分祀に対する期待感を表明するに留まった。訪日間際の中国の温家宝首相は「(日本の首相による靖国神社参拝は)中国人民の感情を著しく傷つけた。二度とないよう希望する」とけん制するに留めた。中韓とも小泉政権時代に冷えきった日本との関係改善を優先させたい意向がうかがえる。
▼だが、取り巻く状況が変われば新たな火種として火を吹く可能性がある。しかも今回の資料は70年以降については明らかにされていない(A級戦犯合祀は1978年)。海外からの批判があるからではなく、まずは憲法の政教分離原則に抵触しないのか、また当時の厚生省の引揚援護局にいた旧軍人グループの動きも含め、全容解明を日本政府は進めるべきではないのか。

Wednesday, March 28, 2007

利用された「愛国法」

▼下院司法小委員会は、民主党に近いとみられる米連邦地検検事正8人の解任を司法省に指示したと思われるローブ大統領次席補佐官らの議会宣誓証言を求めて召喚状を出すことを決めた。民主党はローブ氏らの追及に一歩も引かない構えだ。
▼ブッシュ大統領は昨年10月、民主党メンバーによる選挙違反疑惑の捜査に真剣に取り組んでいない地検検事正がいるとの共和党上院議員らの指摘を司法長官に伝達、2カ月後に7人の検事正が解任された(もう一人はそれ以前に解任)。
▼大統領は検事正を含む広範な「政治的任命権」があるとし、政権の承認の下、8人を解任したゴンザレス司法長官の決定は適切だったと強調。当初はブッシュ政権のマイヤース法律顧問が、93人全員の交代を司法省に提案していたことも分かった。
▼米国では司法長官が日本でいう法相と検事総長を兼ねているため、政権と一体ではないかと思われがちだがそうではない。連邦検事の任命には議会の承認で、政権とは一定の独立が保たれているのだ。
▼ところが、9・11のテロ後に制定された「愛国法」で、連邦検事が欠けた場合、大統領が暫定検事を任命できるが、すぐに議会承認がなされない場合、任命した大統領の任期一杯(本来は120日以内)暫定検事が職務を全うできるようになった。
▼一方、CIA工作員名漏えい事件で、チェイニー副大統領の元首席補佐官、ルイス・リビー被告を偽証罪などに問い、有罪の評決を勝ち取ったフィッツジェラルド特別検察官について、司法省が「際だって優秀ではない」と低評価し、政権に「忠誠を示す検事正」と「異を唱える検事正」の間に位置付けていたことが判明した。同氏と同ランクだった二人は後に解任された。
▼CIA工作員名漏えい事件では、ローブ大統領次席補佐官まで追及の手が及びそうであった。解任問題は、愛国法のため後退した民主システムを使っての、フィッツジェラルド氏のような辣腕検事正排除の「陰謀」ではないかと見られている。

Tuesday, March 13, 2007

言い逃れか、恥の上塗りか

▼旧日本軍の従軍慰安婦問題で日本政府に謝罪などを求める米下院の対日決議案の共同提案者が、当初の6人から42人に増えた(12日時点)。リベラル派が多数だが、ダンカン・ハンター前軍事委員長(共和党)や決議案に反対していた親日派のローラバッカー下院議員(共和党)のような保守派も賛成に回っている。
▼日系のホンダ議員(民主党)らが提出した決議案は、当時の日本政府が関与し、「軍の強制売春」があったとして「残酷さと規模において前例がない」と非難。過去に四回提出され、昨年初めて下院外交委員会で可決されたが、日本政府の協力なロビイスト活動もあり、廃案となった。
▼今年は元慰安婦3人による公聴会も開かれ、韓国人元慰安婦の金君子さん(81)は「多い日には40人に強姦(ごうかん)され」、妊娠し中絶を強いられたと証言した。今回の決議案は「人権」と「女性の権利」に力点が置かれ、女性のペロシ下院議長(民主党)が理解を示していることから、本会議で可決される公算が大きい。
▼安倍首相は「決議があったからと言って、我々が謝罪することはない」と断言。従軍慰安婦に対する「おわびと反省の気持ち」を表明した93年の河野官房長官談話を「基本的に継承する」と言いつつ、「決議案は客観的事実に基づいておらず、日本政府のこれまでの対応を踏まえていない」と指摘、政府、自民党で再調査する考えを表明した。
▼これに米国メディアは猛反発。ニューヨークタイムズ紙は「連続的レイプで売春ではなかった」と書き、ロサンゼルスタイムズ紙は天皇による謝罪を提案する社説まで掲載した。
▼首相は11日のNHKの番組で「慰安婦の心の傷は大変な傷。心からおわびしている」と発言したが、ホンダ議員は、歓迎するが公式の謝罪には至っていないと一蹴。首相の主張は、軍が人さらいのように連行する「狭義の強制はなかった」のようだが、経過を見るに「言い逃れ」と思われても仕方ない。間違っても「恥の上塗り」は避けて欲しいものだ。(CAPITAL 07年3月15日号より転載)

Monday, February 19, 2007

核兵器のない世界

▼年頭の1月4日、ウォールストリートジャーナル紙にニクソン、フォード両政権のキッシンジャー元国務長官、レーガン政権のシュルツ元国務長官、クリントン政権のペリー元国防長官、ナン元上院軍事委員長の4人の連名による「核兵器のない世界」と題する論文が掲載された。
▼論文は、北朝鮮とイランの核開発はもとより、テロリストに核兵器渡る危険がある現在、冷戦時代の戦略となっていた核抑止力に依存することは、「ますます危険で、ますます有効でなくなっている」と警告、核兵器廃絶のために「核保有国の指導者が努力を強め、核兵器のない世界という目標を共同の事業とすること」を提言している。
▼核の恐怖の均衡下にあった冷戦時代に世界戦略を立案、推進してきたキッシンジャー及びシュルツ元国務長官らがこうした見解を述べた意義は大きい。
▼ペリー元国防長官はクリントン政権では核開発阻止のためには空爆も辞さないと主張してきた強硬派でもあった。このままでは2010年までに核戦争が起きると数年前より警告してきた。
▼論文では「核兵器のない世界というビジョンと、その実現に向けた現実的措置を改めて主張することは、米国の倫理的な伝統とも両立する」とし、米国が世界をリードして核兵器廃絶に向けた行動を取るよう進言している。
▼北朝鮮との六カ国協議は前進したが、イランはウラン濃縮を止めないと改めて宣言した。先制核使用も辞さず、小型核開発に熱心なブッシュ政権はこの進言をどう受けとめたか。
▼日本では昨年「核武装論議」が起きたが、唯一の被爆国である日本が核武装したら核不拡散条約(NPT)体制が完全に崩壊することが分かっての核論議だったのだろうか? 核武装をしたがっている国は、一説では実に30か国ほどにのぼっているということを忘れてはならない。(CAPITAL07年2月15日号より)

Tuesday, January 30, 2007

中東大戦争の予兆

▼ブッシュ大統領は1月10日、イラク派兵を約2万人増やすと同時に、「イランとシリアは、イラクの反米ゲリラへの資金提供や武器供給、ゲリラの軍事訓練をしておりイラク再建を邪魔している。妨害工作を潰すため、戦線を拡大する」という驚くべき演説を行った。
▼ブッシュ政権はこれまで「イランが核兵器を開発している」と主張してきたが、CIAが昨年11月に改めて「イランが核兵器を開発していると考えられる証拠は何もない」とする報告書を発表したため、新たな「口実」を考えたかのようだ。
▼ゲーツ国防長官は「この地域で別の紛争を起こそうとは誰も思っていない」と対イラン武力行使を否定するが、イラク北部のイラン関係施設を米軍が家宅捜索しイラン人を拘束、ペルシャ湾には二隻目の空母派遣、イラン大手国営銀行への金融制裁など次々に圧力をかけ、まるでイランを挑発しているかのようだ。
▼中東のドミノ的民主化を主張していたネオコンが政権から去り、ベーカー元米国務長官らが昨年末、イラク情勢打開のためにイランとの対話を求める報告書を提出したが、政権はこれをまったく無視している。
▼イラクにイスラム教シーア派主導の政権が誕生したことで、シーア派の大国イランが中東全域への影響力を拡大しつつあるとの危機感があるとされるが、真相は石油そのものの資源争奪戦にだけあるのではない。
▼イラク侵攻の裏にあったのは、石油のドル建て決済をイラク・フセイン政権がやめようとしたからである。ここ数年、イランをはじめ世界中のかなりの国がドル建て決済からユーロなどにシフトし始めている。
▼そうなれば、どんなに貿易赤字、財政赤字、対外債務国だろうがドルを刷ってさえいればよかった米国の基軸通貨ドル体制は崩れ、米国は貿易赤字超大国になり国家破産すら考えられる。
▼大統領は23日の一般教書演説でもイラク増派への理解を求めたが、米国がイランと戦争したがっている理由は核問題ではなく、石油でもなく通貨問題なのである。
(CAPITAL07年2月1日号より)

Wednesday, January 10, 2007

500年後のフセイン元大統領

▼7日付ニューヨーク・タイムズが、昨年12月30日に行われたイラクのフセイン元大統領の死刑執行を巡り、イラク政府と米国の間で駆け引きがあったことを伝えた。
▼米国は、イスラム教で最も重要な犠牲祭を控えていたことなどを踏まえ、ハリルザド駐イラク米大使らが処刑を急がないよう重ねて説得。しかし、マリキ政権の「早く身柄を渡せ」との強硬な姿勢に最終的に説得をあきらめ、ライス国務長官に連絡を取って了承されたという。
▼死刑は元大統領暗殺未遂事件が起きた中部ドジャイルで、シーア派住民148人を虐殺した罪に対して行われたもので、裁判の公正さを疑問視し、死刑に反対していた欧州諸国や国際人権団体からは批判が噴出した。
▼処刑の模様はニュースでも放映されたが、執行に立ち会った者が携帯電話で撮影した生々しい処刑現場がインターネットで世界中に流れた。撮影者は逮捕されたが、元大統領が弾圧したシーア派やクルド人が中枢を占めるマリキ政権による「報復的処置」との見方を裏付けるようなものだった。
▼処刑により、公判中だった80年代のクルド人弾圧や、88年の北東部ハラブジャでの化学兵器による住民虐殺、90年のクウェート侵攻などの捜査は打ち切られた。欧米のメディアは歴史の証言者としてフセイン元大統領へのインタビューを切望していたが、米国との蜜月時代もあったフセイン政権の真相は闇に葬られたと言えるだろう。
▼明治天皇を尊敬していたというフセイン元大統領は、「現在どのように評価されようとまったく気にしない。500年後に崇拝されているかどうかだ」とある伝記作家に伝えたという。このようなことを言わせないためにも、死刑は行うべきではなかった。
(Capital07年1月15日号より)

Thursday, January 04, 2007

豚と猪

▼今年は豚年、などというと驚かれると思うが、中国も朝鮮もベトナムも十二支の最後十二番目の動物は猪ではなく豚である。
▼中国語では「猪」とは「豚」のことである。ご存じの通り、「西遊記」の猪八戒はブタだ。中国語ではイノシシを「野猪」である。
▼どうも、十二支が大陸から伝わった時、日本にはイノシシの家畜である豚がまだ存在していなかったらしい。それで猪がイノシシになったようだ。
▼イノシシの語源は「猪(い)の獣(しし)」から。現在でも干支のイノシシを「亥(い)」と言うが、この「い」は古くは「ヰ(ゐ)」で、鳴き声を表した擬声語で「ウィ」と発音していた。つまり、ウィと鳴く獣が猪だ。
▼英語ではWild boarで、Wild pigとも。直訳で野ブタだ。ユーラシア大陸を中心に世界中至る所に分布し、米国にも多少生息する。アニメ「ライオン・キング」のブンバはイボイノシシ。日本にいるのは日本にはニホンイノシシとリュウキュウイノシシ。
▼猪の肉は「牡丹肉」とも言われる。白い脂肪に縁どられた赤い肉を切り分けて皿に盛った状態が牡丹の花のように見えるからだ。獣の肉食がタブーとされた時代も「山鯨(やまくじら)」と称して例外的に食べていた。
▼「薬喰い」の別名もある通り、滋養強壮、万病を防ぐと言われ、そこから無病息災の象徴となった。今では郷土料理として兵庫県の丹波地方や神奈川県の丹沢地方にでも行かなければなかなか食べる機会がない。
▼猪がらみの熟語といえば「猪突猛進」。周囲の人のことや状況を考えずに、一つのことに向かって猛烈な勢いで突き進むこと。必ずしもいい意味であるとは限らないが、猪は「勇気と冒険」を表す動物でもあり、こっちを取りたいところ。(CAPITAL2007年1月1日号より転載)