▼その高校の校庭には、白人生徒が集まることから「ホワイト・ツリー」と呼ばれる樫の木があった。白人生徒たちの休憩場所となっていた。黒人生徒は使えなかった。
▼昨年の夏、ある黒人生徒の一人がそこに座る権利を学校に求め、実際にそこに座った。すると翌日、この木に絞首刑用のロープ三本が吊るされていた。かつて米国では、黒人をリンチし木に吊るしていた。黒人差別の意味は明らかだった。
▼校長は木を切り倒し、犯人の白人生徒三人に退学勧告したが、教育委員会がこれを差し止め、三日間の停学処分に変更。これに黒人生徒らは憤慨、乱闘や放火まで発生し、昨年十二月四日、乱闘の被害者となった黒人をからかった白人生徒に黒人生徒六人が暴力をふるい、逮捕された。
▼「私がペンを一走りさせればお前ら(黒人)の人生なぞ消し去ることが出来る」と豪語したことのあるJ・リード・ウォルターズ検事は、未成年の高校生を第二級殺人未遂罪で訴追、テニスシューズを「致死性のある武器」とまで主張した。
▼審理が進むにつれ「人種差別による不正裁判だ」と検察当局を非難する声がわき起こり、全米へと広がった。公正な裁判を求める著名運動では三十八万人が集り、全米有色人地位向上協会(NAACP)は六人の裁判費用捻出のための基金を設立、歌手のデビッド・ボウイが一万ドル寄付した。
▼そしてある審理の日、人口三千人の町は、それをはるかにこえる数万人のデモ隊で埋め尽くされた。ラッパーのモス・デフやUGKのバン・Bの姿もあったという。学校は休校、商店街も店を閉めた。しかしこの日の審理で、事件当時十六歳であるにも関わらず九カ月以上拘留されたままのマイケル・ベルの保釈は認められなかった。
▼これがルイジアナ州の小さな町、ジーナで去る九月二十日に起きたことである。この事件は通称「ジーナ・6(シックス)」と呼ばれ、今後も予断を許さない。
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