Wednesday, January 10, 2007

500年後のフセイン元大統領

▼7日付ニューヨーク・タイムズが、昨年12月30日に行われたイラクのフセイン元大統領の死刑執行を巡り、イラク政府と米国の間で駆け引きがあったことを伝えた。
▼米国は、イスラム教で最も重要な犠牲祭を控えていたことなどを踏まえ、ハリルザド駐イラク米大使らが処刑を急がないよう重ねて説得。しかし、マリキ政権の「早く身柄を渡せ」との強硬な姿勢に最終的に説得をあきらめ、ライス国務長官に連絡を取って了承されたという。
▼死刑は元大統領暗殺未遂事件が起きた中部ドジャイルで、シーア派住民148人を虐殺した罪に対して行われたもので、裁判の公正さを疑問視し、死刑に反対していた欧州諸国や国際人権団体からは批判が噴出した。
▼処刑の模様はニュースでも放映されたが、執行に立ち会った者が携帯電話で撮影した生々しい処刑現場がインターネットで世界中に流れた。撮影者は逮捕されたが、元大統領が弾圧したシーア派やクルド人が中枢を占めるマリキ政権による「報復的処置」との見方を裏付けるようなものだった。
▼処刑により、公判中だった80年代のクルド人弾圧や、88年の北東部ハラブジャでの化学兵器による住民虐殺、90年のクウェート侵攻などの捜査は打ち切られた。欧米のメディアは歴史の証言者としてフセイン元大統領へのインタビューを切望していたが、米国との蜜月時代もあったフセイン政権の真相は闇に葬られたと言えるだろう。
▼明治天皇を尊敬していたというフセイン元大統領は、「現在どのように評価されようとまったく気にしない。500年後に崇拝されているかどうかだ」とある伝記作家に伝えたという。このようなことを言わせないためにも、死刑は行うべきではなかった。
(Capital07年1月15日号より)

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