Tuesday, May 17, 2011

メルトダウンを隠していたのか?

▼あきれた話である。福島第一原発1号機の核燃料はやはり炉心溶融(メルトダウン)していた。米CNNなどは当初から専門家の意見を紹介し、メルトダウンの可能性を警告していたが、東京電力と経産省原子力安全・保安院は当初、燃料の一部損傷としか発表していなかった。
▼ところが、実際には地震から16時間後には1号機は現実には燃料棒のすべてが溶け、圧力容器の底にたまった状態だったと2か月もたった今頃になって発表した。2号機と3号機も一部メルトダウンしているという。
▼さらには、東電関係者が「地震の揺れで圧力容器や配管に損傷があったかもしれない」と、津波の前に重要設備が被害を受けた可能性を認めた。「1000年の一度の大津波」ではなく地震で壊れたというのである。従来の説明は、原子炉は地震には耐えたが、「想定外」の大津波に襲われて電源を失い爆発事故に至ったというものだ。
▼もしこれが事実なら浜岡原発だけでなく、日本のすべての原発の見直しを行い、安全性が確保されるまでは稼働停止にする必要があるのではないか。
▼当初の認識の甘さが事態悪化につながったことは、すでに多くの局面で証明済みだ。原子炉を冷やすために、圧力容器も格納容器も満水にする「水棺」も的外れの対策ということだ。
▼「安全神話」はすでに崩壊した。再臨界や水蒸気爆発の恐れは本当にないのか。認識の甘さは、子供でも年間20シーベルトまでという放射線被爆問題にも言えることではないのか。未だに予断を許さないフクシマは二度と繰り返してはならない。(CAPITAL#131より転載)

Tuesday, May 03, 2011

ビンラディン死亡で何が変わったのか

▼「我々は彼を仕留めた(We got him)」。ホワイトハウス作戦司令室で約40分間の作戦を生中継ビデオで見ていたオバマ大統領が、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者(54)の殺害を確認後、口にした言葉である。
▼しかし、大統領が1日夜に行った演説は「正義が行われた」と成果を強調したものの、抑制の効いたもので、「憎悪の連鎖」を避けるためか、喜びを表すようなそぶりは一切なかった。
▼ホワイトハウス前では夜中だというのに数千人が詰めかけ、星条旗を振り「USA」を連呼、「宿敵」ビンラディンの死を祝う人々で溢れた。ニューヨークのタイムズスクエアも戦勝パレードのようなお祭り騒ぎとなった。
▼だが、翌日のグランドゼロ前はメディアの数ばかりが目に付き、お祭り気分はなかった。遺族にとってビンラディンの死は9・11テロの真相解明がいっそう遠のいたことでもある。
▼作戦は練りに練られてたものだ。隠れ家を発見したのは昨年8月で、確証を得たため今年3月に軍事作戦の検討を開始。ミサイルで木っ端みじんにする案も検討されたが、遺体識別が困難なほどになると新たな「伝説」を作ってしまうと退けられた。遺体は「水葬」にして「聖地」を作れないようにすることなどもすべて事前に計画された。
▼オバマ大統領は、大統領の出生地問題という不毛なスキャンダルにうんざりするなかの29日、急襲作戦を決断した。
▼殺害後、国務省は海外渡航中の米国人にアルカイダによる「報復テロ」の危険性があると注意を呼びかけているが、米国内に関しては、ナポリターノ国土安全保障長官は先月末導入したばかりの「全米テロ勧告システム(NTAS)」を発する予定はないと発表した。
▼大統領は2日の米兵の名誉勲章授与式のスピーチで「ビンラディンの死によって、世界はより安全になった」と述べたが、「勝利」を全面に出すことはなかった。今年7月にアフガンからの駐留軍の撤退を開始し、イラクでも年内に撤退を完了させるのが大統領の次の目標だ。(CAPITAL#130より転載)

Saturday, April 16, 2011

大震災とマネーゲーム

▼3月11日に東日本大震災が発生すると不思議なことに円高になった。「保険会社が保険金支払いのために一時的に円高に」との報道が多かった。確かに復興のためにはお金が必要で、海外に売っていた円を買い戻す必要があるが、これを先読みし円を売って差益を得ようとした投機筋が出てきたのは間違いない。円高は必ずしもだめではないが、輸出関連企業の多い日本には迷惑な話である。
▼米投資情報週刊誌「バロンズ」は3月20日付で「日本は買い」と題する記事を掲載した。「大震災以前でも割安だった日本の株はさらに安くなっており、絶好の投資機会」と書いた。
▼日本の復興を期待してのありがたい話ではない。大震災後、日本は株価暴落で株式市場だけで50兆円が消えた。売りを浴びせた外国人投資家たちがいたことは間違いない。それで「いま日本は買い」というわけなのだ。
▼日本銀行は東日本大震災後の3月14日から7営業日連続で大規模な資金供給を続け、総額は100兆6千億円に達した。震災による経済の先行き不安で銀行が手元資金を抱え込む傾向が出ていると分析しており、 潤沢に供給することで金融面の不安解消を目指したわけだ。
▼ではこのお金、日本の復興に役立っているのか? 日銀が資金供給した金融機関は三菱UFJ、みずほ、三井住友の3大メガバンクと野村、大和の2大証券会社だが、回収リスクがあったりリターンが低い案件には融資も投資もしない。
▼大部分がゴールドマン・サックス、シティグループ、メリル・リンチなど外資系に「円のキャリートレード」として低金利で貸し出されていると思われる。外資系企業は新興国に投資や先進国の株、債権に投資する。日本には回らず原油、食料などのコモディティの買占めに走り、価格をつり上げている可能性すらあるのだ。
▼投資の世界は冷徹といえばそれまでだが、こうしたマネーゲームの中で、金融は翻弄される現実がある。復興は市場には任せられない、国の強力な政策が不可欠だ。

Saturday, April 02, 2011

「原発に殺された」

▼福島第一原発の事故の影響で、政府が一部の福島県産野菜について「摂取制限」の指示を出した翌日の24日朝、福島県須賀川市で野菜農家の男性(64)が自宅で首をつり命を絶った。
▼男性は農業高校を卒業後、有機栽培にこだわり米やキュウリなどを作ってきた。8年ほど前から始めたキャベツはほかの農家から栽培方法を尋ねられるほど評判が高く、地元の小中学校の学校給食にも使われていた。
▼「野菜も米も人の口に入るものなので、農薬はなるべく使いたくない」というのが口癖だったという。地震で母屋や納屋が壊れたが、畑の約7500株のキャベツは無事で、出荷直前だった。
▼次男(35)の話では、福島第一原発が爆発したニュースを見た時、「最悪の時代に生まれた。日本の農業はおしまいだ」とつぶやいていたという。次男は「原発のせいで殺された。地震だけなら死ぬことはなかった」と憤る。
▼深刻な炉心溶融に至った1979年のペンシルベニア州スリーマイルアイランド原発事故から32年に当たる28日早朝、地元住民や反原発グループなど約30人が同原発前で集会を開き、米国の原発停止を求めるとともに福島の原発事故で苦難のなかにある人々のために祈りをささげた。(CAPITAL4月2日号より転載)

Saturday, March 19, 2011

相反する日本への評価

▼3月11日午後2時46分(日本時間)に発生した東日本大震災。16日時点で、死者は宮城や岩手など12都道県で3771人、行方不明者は岩手や福島など6県で8181人、避難者は55万人を超えている(警察庁まとめ)。余震も続き、首都圏も計画停電、放射線検出などで混乱している。
▼まさに未曾有の大天災となったが、海外では日本人の冷静さやマナーを賞賛する声が相次いだ。中国では、非常事態にもかかわらず、日本人は「冷静で礼儀正しい」「マナーは世界一」「人類で最高の先進性が日本にある」と絶賛する声がネットの書き込みやツイッターなどに寄せられた。ウォール・ストリート・ジャーナルは「日本は。いかにすれば人間の計画と産業社会が自然災害に対処できるかの証」と論じ、ニューヨーク・タイムズは「奮い立つ日本(大和)魂」と題し、日本が災害復興に全力を尽くしていることを紹介した。
▼海外からの支援が相次いだ。国連の潘基文(パンギムン)事務総長は「国連は日本の支援に全力を尽くしていく」と声明を発表。オバマ大統領は「米国は可能なあらゆる支援をする準備がある」と述べた。米軍の支援作戦の名称は「TOMODACHI(友達)」。三陸沖に原子力空母ロナルド・レーガンを展開、空軍や海兵隊が自衛隊と共同で捜索活動や救援物資の輸送に当たっている。
▼領土や歴史認識問題など外交面で日本と対立する中国やロシア、韓国でも「日本を救え」という声が広がり、支援物資や救助部隊が到着した。被災地支援の海外からの申し入れは114カ国・地域と24国際機関になった。うち11カ国は援助隊を派遣し被災地で活動中だ。
▼だが、福島第一原発事故をめぐっては、海外からの評価は一気に下がる。東京電力の対応のまずさが危機拡大につながっているとの見方が大勢を占めている。
▼原発の「安全神話」が壊れるのを恐れるあまり、楽観的な発表を繰り返し、対応が後手後手の対応になったのではないか。海外の協力もあおぎ、日本、いや世界の総力をあげてチェルノブイリに次ぐといわれる今回の原発被害拡大を食い止めてほしい。(CAPITAL127号-3月19日号より転載)

Wednesday, March 02, 2011

国境なき自由と民主主義の新勢力

▼クリントン国務長官がインターネット上でも表現の自由、信教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由が守られるべきであり、そのためにはネットに接続する自由が不可欠と演説した。オバマ政権はツイッターなどの利用に熱心だが、演説はチュニジアやエジプトなど中東政変での経験を踏まえたものだ。
▼中東政変ではネットが大きな役割を果たし「フェイスブック革命」「ツイッター革命」だとの声もある。しかし、それらはあくまでも便利な道具に過ぎなく、ネットで政治革命が起きるわけではない、過大評価すべきではないという声も根強い。
▼とはいえ、エジプト政変で主導的役割を果たした「4月6日運動」は数年前からチェニジア、リビア、アルジェリア、モロッコ、そしてイランの若者たちともフェイスブックで交流をし、デモをどうやって行うなどを熱心に議論していたという。ネットがなければ中東のドミノ的政変はなかったと言える。
▼1月下旬にエジプト政府がフェイスブックなどを遮断した際は、グーグルが電話線を通じての回路を提供、また謎のハッカー集団アノニマスがエジプト政府、内務省、通信・情報技術省のサイトなどに大量のデータを送信し機能を停止させる攻撃を行った。ネットは繋がれた。アノニマスは「言論の自由を脅かす検閲行為には容赦しない」とサイトに宣言を残した。
▼クリントン長官の演説に対し、中国は「ネットの自由を口実に他国の内政干渉はすべきでない」と批判した。米国が外交政策の目標達成のためにネットを活用することが見え見えだからだ。
▼徹底したネットの自由を求めるアノニマスは、ネットの自由を脅かしたり、人権を擁護しない国家や組織に対しては今後も容赦ないサイバー攻撃をすると明言している。アノニマスは英語の巨大掲示板である「4chan」に集まっていたメンバーがもとだといわれているが、ネット社会から生まれた国境なき自由と民主主義の新勢力である。(CAPITAL126号3月5日号より)

Thursday, September 02, 2010

小沢氏出馬 

▼民主党代表選(14日投開票)は小沢一郎前幹事長が名乗りを上げ、再選を目指す菅直人首相との一騎打ちとなった。これで1年に3人も総理が変わるようなことになっては国際社会で信頼をなくすという見方もあるが、歴史的政権交代後の混乱は想定内だろう。
▼先の参院選で敗北し、衆参ねじれの菅政権では、すぐに国会運営が行き詰まるのは目に見えていた。「豪腕」小沢氏に期待する向きは多いが、「政治と金」疑惑で検察審査会の審査待ちではだめだという「反小沢」の声も強い。
▼振り返れば「政治とカネ」というのは自民党時代より、政敵潰しなど、政策不在で政局しかない状況において使われてきた。米国の「ネガティブキャンペーン」による世論誘導とほぼ同じだ。
▼一般市民で構成される検察審査会の意義はあるだろうが、検察特捜部の1年にも及ぶしらみつぶしの捜査でも小沢氏を起訴に持ち込めなかった。この事実を重く受け止めるべきではないのか。
▼ここに来て、相変わらず「政治とカネ」で批判するのは政策不在の証拠だろう。小沢氏はあくまで「国民の生活が第一」とした昨年の民主党マニュフェスト履行にこだわっており、菅首相は財源不足で履行は無理と消費税論議をしたがっている。
▼とにもかくにも20年あまりにわたり日本の政治は小沢氏を中心に回ってきた。昨年、検察の捜査がなければ小沢政権だった日本。今度はさて、どうなるか。 (た)