Friday, October 27, 2006

黒人大統領と女性大統領

▼中間選挙キャンペーンは民主党優位のうちに進んでいるが、民主党の応援演説で各陣営から引っ張りだこなのが黒人政治家、バラク・オバマ上院議員(イリノイ州選出)(45)だ。
▼ハーバード大ロースクール出身の人権派弁護士で、〇四年の初当選以来、「将来の大統領候補」と目されてきたが、本人は今年初めに大統領選出馬を全面否定していた。しかし二十二日、〇八年の大統領選への出馬の可能性を検討すると表明したのだ。
▼男女平等を標榜し、黒人差別問題にも積極的に取り組んできた米国だが、いまだかつて女性と黒人は大統領になったことがない。
▼過去に黒人大統領誕生の動きがなかったわけではない。コリン・パウエル氏である。黒人初の統合参謀本部議長として第一次湾岸戦争の英雄となったパウエル氏は96年、共和党からの大統領出馬が取り沙汰され、立候補すれば当選は確実と言われた。
▼だが、「黒人が大統領になったら暗殺される」とする妻(白人)の反対のため出馬せず。第一期ブッシュ政権で初の黒人国務長官になった。今では、米国大統領が誰だろうとアルカイダなどの暗殺の対象である。
▼次回大統領選をめぐっては、ヒラリー・クリントン上院議員の出馬が有力で、圧倒的な資金力と知名度から民主党の指名獲得の可能性が高いとされている。ヒラリーが大統領になれば、初の女性大統領誕生だ。
▼一方、共和党には国民的人気の高い現国務長官のライス氏がいる。彼女が大統領になれば黒人でかつ女性という画期的な大統領が誕生する。
▼初の女性大統領や黒人大統領はいつ誕生するのだろう。そろそろ新しいページが開かれてもいいのではないか。(CAPITAL第22号より転載)

Friday, October 13, 2006

危険な国

▼危険な国としてブッシュ大統領に「悪の枢軸」とまで言われた北朝鮮が、核実験に成功したと発表した。日米を敵視する核兵器保有国がすぐ日本の西に出現した。東アジアの核保有国はロシアと中国のみで、日本と韓国が米国の「核の傘」に入ることで戦略バランスが保たれてきたが、この均衡が崩れる可能性が出てきた。
▼これは米政権の対北朝鮮政策の失敗を意味するのか? 中間選挙を前に、民主党はブッシュ共和党政権のこれまでの対応の甘さを攻撃しているが、これで中ソが重い腰を上げ、北朝鮮に対する本格的経済制裁が実施できるという見方もある。
▼そもそも核実験は成功したのか疑問が残る。茶番劇の可能性も捨てきれない。いずれにせよミサイルへの搭載となるとまだ数年はかかると見られる。まだそれほどの脅威はないと見る向きが多く、株価の動きも小さかった。
▼今回、米メディアや専門家の論調で目立ったのは、これを機に日本が核武装を始めるのではということだ。アジア諸国も日本の出方を注視している。
▼「日本は技術力があれば数カ月で核兵器を保有できる」(クリスチャン・サイエンス・モニター紙)などと米メディアが相次ぎ報道、ワシントン・ポスト紙は「米当局の主な懸念は、日本のこれからの反応だ」とし、北朝鮮の核実験は「日本が数十年続けてきた非核の公約を破る」ことにつながりかねないと予測した。
▼韓国、台湾が核兵器開発に乗り出す「ドミノ化」も指摘される。台湾が核武装に踏み切れば、中国が一層の軍拡に走るのは必至で、台湾海峡の緊張も高まることになる。さらに、自国開発は無理でも、核移転によりベトナム、ミヤンマーなどが核兵器保有国を目指す可能性も指摘されている。
▼ライス長官は「日本の核武装による地域の核バランスの変化が安全保障状況の改善につながるとは、誰も考えていない。我々は日本を信用している」と語り、ブッシュ大統領は「弾道ミサイル防衛(BMD)」の推進を強調した。
▼拉致問題で北朝鮮非難を強める国民と、改憲を目指す安倍政権という現在の日本は、思いの外「危険な国」と思われているのかも知れない。
(CAPITAL#22 2006年10月15日号より)

Tuesday, October 10, 2006

二つのキリスト教右派

 先日、「ジーザスキャンプ」というすごい映画を見た。5歳〜12歳までを対象のキリスト教を教える福音派のサマーキャンプのドキュメンタリーなのだが、キャンプディレクターのベッキー・フィッシャー牧師は、イスラム教徒の自爆テロを暗に引き合いにして、キリスト教徒にも神のために命を捧げられるような「神の国の戦士」を育成したいようなことを言う人。いきなりハリー・ポッターは魔法使いの悪魔だから殺さなくてはならないと子供たちを動揺させ、政府は悪とGOVERMENTとマジックで書いたコーヒーマグをトンカチで割らせたりする一方、中絶反対のブッシュ大統領の等身大写真を拝ませる。さらに神の戦士の格好のつもりか、迷彩ペイントを顔に塗り、棒を剣にみたてて踊らせる。福音を大声で読ませて神に救済を求めると、子供たちの中には興奮して涙を流したり痙攣したりと、オウム真理教も顔負けのキャンプだ。
 ちょっと極端な例かも知れないが福音派(原理主義者)は全米で3千万とも5千万人ともいわれ、今のブッシュ政権を支えている。同じ保守的なキリスト教徒でも、学校襲撃で5人の児童が殺害されたアーミッシュの村では、犠牲者の遺族らが事件後、犯人の家族を許すと伝え食べ物を与えたという。アーミッシュの許しの文化は生存者の癒やしにつながり、復讐より許す方がはるかに大切であることを教えてくれた。  

Tuesday, October 03, 2006

機密報告書のスクープ

▼ニューヨーク・タイムズは24日、イラク戦争がイスラム過激派の活動を活発化させ、テロのネットワークを拡大させる結果となったと、米政府の機密報告書「国家情報評価(NIE)」が結論付けていることをスクープした(電子版は23日)。
▼「国際テロの傾向」と題されたこの報告書は、中央情報局(CIA)など16の米情報機関の統一見解を盛り込んだもの。米国やイスラエルなどへの「ジハード(聖戦)」の思想は、イラク戦争によって世界に広がったと指摘、イスラム過激思想は衰退しているというより、地球規模で転移、拡大したと結論付けている。
▼テロとの戦いにより「世界はより安全になった」と主張しているブッシュ政権は慌てふためき、「(報道はテロの全体像を)歪曲している」(ネグロポンテ国家情報長官)などと反論、ブッシュ大統領は「報道でイラク戦争開戦は誤りだったと結論付ける人も出てくる。それには我慢ならない。自分自身で結論を出してほしい」とした。
▼だがこれで収まるわけがなく、上院情報特別委員会のロックフェラー副委員長(民主党)は長官に書簡を送り、上院議員にも公開されない機密扱いのNIEの公開を要求、国家情報長官局は26日、機密解除してその一部を公表した。
▼報告書は、「イラクでの『聖戦』は新世代のテロ指導者や活動家を作り上げている」「反米を掲げる新たな過激派が出現する可能性が高まっている」と指摘、イラクでの紛争が「米国に対する深い憎悪を生み、世界規模の聖戦の動きを支援する勢力を助長させている」と明確に分析している。
▼イラク戦争に反対していた人たちから見れば、なにをいまさらという感じだが、これが世の中の流れというものだろう。中間選挙を前に野党民主党は勢いづく。
▼それにしても、報告書は政府機関内での激論を経てまとめられたものなのだというのに、何故それがブッシュ大統領の言うことと違っていたのか。
▼日本では安倍新内閣が発足した。いろいろ考えはあるだろうが、まずは誠実で、腹蔵のない政治運営を願いたい。