Saturday, April 16, 2011

大震災とマネーゲーム

▼3月11日に東日本大震災が発生すると不思議なことに円高になった。「保険会社が保険金支払いのために一時的に円高に」との報道が多かった。確かに復興のためにはお金が必要で、海外に売っていた円を買い戻す必要があるが、これを先読みし円を売って差益を得ようとした投機筋が出てきたのは間違いない。円高は必ずしもだめではないが、輸出関連企業の多い日本には迷惑な話である。
▼米投資情報週刊誌「バロンズ」は3月20日付で「日本は買い」と題する記事を掲載した。「大震災以前でも割安だった日本の株はさらに安くなっており、絶好の投資機会」と書いた。
▼日本の復興を期待してのありがたい話ではない。大震災後、日本は株価暴落で株式市場だけで50兆円が消えた。売りを浴びせた外国人投資家たちがいたことは間違いない。それで「いま日本は買い」というわけなのだ。
▼日本銀行は東日本大震災後の3月14日から7営業日連続で大規模な資金供給を続け、総額は100兆6千億円に達した。震災による経済の先行き不安で銀行が手元資金を抱え込む傾向が出ていると分析しており、 潤沢に供給することで金融面の不安解消を目指したわけだ。
▼ではこのお金、日本の復興に役立っているのか? 日銀が資金供給した金融機関は三菱UFJ、みずほ、三井住友の3大メガバンクと野村、大和の2大証券会社だが、回収リスクがあったりリターンが低い案件には融資も投資もしない。
▼大部分がゴールドマン・サックス、シティグループ、メリル・リンチなど外資系に「円のキャリートレード」として低金利で貸し出されていると思われる。外資系企業は新興国に投資や先進国の株、債権に投資する。日本には回らず原油、食料などのコモディティの買占めに走り、価格をつり上げている可能性すらあるのだ。
▼投資の世界は冷徹といえばそれまでだが、こうしたマネーゲームの中で、金融は翻弄される現実がある。復興は市場には任せられない、国の強力な政策が不可欠だ。

Saturday, April 02, 2011

「原発に殺された」

▼福島第一原発の事故の影響で、政府が一部の福島県産野菜について「摂取制限」の指示を出した翌日の24日朝、福島県須賀川市で野菜農家の男性(64)が自宅で首をつり命を絶った。
▼男性は農業高校を卒業後、有機栽培にこだわり米やキュウリなどを作ってきた。8年ほど前から始めたキャベツはほかの農家から栽培方法を尋ねられるほど評判が高く、地元の小中学校の学校給食にも使われていた。
▼「野菜も米も人の口に入るものなので、農薬はなるべく使いたくない」というのが口癖だったという。地震で母屋や納屋が壊れたが、畑の約7500株のキャベツは無事で、出荷直前だった。
▼次男(35)の話では、福島第一原発が爆発したニュースを見た時、「最悪の時代に生まれた。日本の農業はおしまいだ」とつぶやいていたという。次男は「原発のせいで殺された。地震だけなら死ぬことはなかった」と憤る。
▼深刻な炉心溶融に至った1979年のペンシルベニア州スリーマイルアイランド原発事故から32年に当たる28日早朝、地元住民や反原発グループなど約30人が同原発前で集会を開き、米国の原発停止を求めるとともに福島の原発事故で苦難のなかにある人々のために祈りをささげた。(CAPITAL4月2日号より転載)