Friday, June 05, 2009

GMというアメリカン・ドリームの終わり

▼「華氏911」などのドキュメンタリーで知られるマイケル・ムーア監督のデビュー作品は「ロジャー&ミー」(89年制作)である。GM(ゼネラルモーターズ)の工場が閉鎖され、生まれ故郷ミシガン州フリントが崩壊の危機にあることを描いている。
▼非情な合理化を行うGMを徹底的に批判しているが、20年後にそのGMが倒産しようとは、当時のムーア監督も思わなかったに違いない。6月1日、GMは連邦倒産法第11章適用を申請、負債額1728億ドル(約17兆4千億円)を抱え経営破綻した。この額は製造業としては世界最大だ。
▼自動車産業は戦後米国の経済繁栄の象徴的存在だった。GMは米自動車ビッグスリーの中でも最大で、50年代には年10億ドル以上を稼ぐ米国最大の企業となった。だがその後は日本車などに押され長期没落傾向になる。
▼GM倒産の原因のひとつとして労務コストの高さが挙げられている。勤続30年余りとはいえ高卒でも年収10万ドルを超える従業員は珍しくない。手厚い福利厚生でも知られ、過去の従業員の退職年金や医療費負担が財務を圧迫した。
▼GMはブルーカラーにとって「アメリカンドリーム」だった。高卒でもコツコツ働けば車も家も持てる。「GMにとってよいことは米国にとって良いこと」(黄金時代の有名な文句)だった。
▼もちろん労務コストで倒産したわけではない。最大の理由は利益率の高いSUVなど大型車中心の販売戦略の失敗だ。またメーカーなのに財務畑出身者ばかりがトップに就き、現場を軽視。現場は日本車に比べ品質の劣るものを作るようになった。メーカーなのに「もの作り」を軽視した。
▼手厚い福利厚生など社会主義国ソ連に対抗しうる米国資本主義企業だったGMが、国と労働組合に所有され、再出発することになったのは歴史の皮肉である。最盛期の1986年に63万人以上いた米国内の人員は10分の1になる。

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