Saturday, June 20, 2009

足利事件ー嘘の自白とDNA鑑定

▼1990年に栃木県足利市で起きた女児(当時4)誘拐殺害事件で無期懲役が確定し、再審請求中だった菅家利和さん(62)が釈放された。菅家さんと女児の着衣に付着していた体液のDNAについて、異なる最新の方法による2つの鑑定でいずれもが不一致だったとの結果が出たためである。
▼最高検及び栃木県警は謝罪したが、謝罪して済む問題ではないだろう。逮捕から17年と半年が経過しているのだ。
▼事件当時、足利では79年と84年にも同様の幼女殺害事件があり未解決だった。栃木県警の威信をかけた大捜査が行われたが手掛かりはなし。県警は、元幼稚園バス運転手の菅家さんがアダルトビデオを多数所有、「そういえば子供を見る目つきが怪しかった」などの聞き込みから犯人と目星をつけ一年間尾行。幼児への声かけすら皆無だった菅家さんのゴミ箱のティッシュを無断で押収しDNA鑑定、「被害者の下着に付いていた精液とDNA型が一致」という理由で連行した。
▼「『おまえがやった』と怒鳴られたり、机をたたかれたりして、刑事たちが怖くなり、もういいやと思った」菅家さんは「自分がやりました」と「自白」してしまう。
▼一審では弁護人までもがこのDNA鑑定を絶対視。菅家さんは「罪を認めて情状酌量を勝ち取る」弁護方針に逆らえず、検察側証拠をほぼ全部認めてしまう。
▼県警は「幼女殺害事件全面解決」と打ち上げた。自白内容と現場の状況の矛盾点が多々あったにも拘わらず、マスコミもなんの検証もしなかった。
▼今回、「任意性のない自白」の信用性を問う声が上がり、取り調べの録音・録画による「可視化」が論議されているが、この冤罪事件には警察、検察、裁判官、弁護士、マスコミすべてが加担していたのである。このままでは、始まったばかりの裁判員制度で一般市民まで冤罪の片棒を担がされてしまう可能性がある。

Friday, June 05, 2009

GMというアメリカン・ドリームの終わり

▼「華氏911」などのドキュメンタリーで知られるマイケル・ムーア監督のデビュー作品は「ロジャー&ミー」(89年制作)である。GM(ゼネラルモーターズ)の工場が閉鎖され、生まれ故郷ミシガン州フリントが崩壊の危機にあることを描いている。
▼非情な合理化を行うGMを徹底的に批判しているが、20年後にそのGMが倒産しようとは、当時のムーア監督も思わなかったに違いない。6月1日、GMは連邦倒産法第11章適用を申請、負債額1728億ドル(約17兆4千億円)を抱え経営破綻した。この額は製造業としては世界最大だ。
▼自動車産業は戦後米国の経済繁栄の象徴的存在だった。GMは米自動車ビッグスリーの中でも最大で、50年代には年10億ドル以上を稼ぐ米国最大の企業となった。だがその後は日本車などに押され長期没落傾向になる。
▼GM倒産の原因のひとつとして労務コストの高さが挙げられている。勤続30年余りとはいえ高卒でも年収10万ドルを超える従業員は珍しくない。手厚い福利厚生でも知られ、過去の従業員の退職年金や医療費負担が財務を圧迫した。
▼GMはブルーカラーにとって「アメリカンドリーム」だった。高卒でもコツコツ働けば車も家も持てる。「GMにとってよいことは米国にとって良いこと」(黄金時代の有名な文句)だった。
▼もちろん労務コストで倒産したわけではない。最大の理由は利益率の高いSUVなど大型車中心の販売戦略の失敗だ。またメーカーなのに財務畑出身者ばかりがトップに就き、現場を軽視。現場は日本車に比べ品質の劣るものを作るようになった。メーカーなのに「もの作り」を軽視した。
▼手厚い福利厚生など社会主義国ソ連に対抗しうる米国資本主義企業だったGMが、国と労働組合に所有され、再出発することになったのは歴史の皮肉である。最盛期の1986年に63万人以上いた米国内の人員は10分の1になる。