Saturday, December 13, 2008

チーム・オブ・ライバルズ

▼オバマ氏が勝利した米大統領選についてニューヨーク・タイムズの有名コラムニスト、トマス・フリードマンは「1863年にペンシルベニア州ゲティズバーグの戦いで大体のケリのついた南北戦争は145年後に同じ州の投票箱で完全に終了した」と書いた。
▼ブルーステート(民主党)とレッドステート(共和党)など、米国はまだ南北戦争の続きをやっているかのような対立の様相を示していたが、「国民融和」を掲げるオバマ氏の勝利で決着がついたというわけだ。
▼だが、8年にわたるブッシュ政権の負の遺産ともいうべきイラク戦争、金融危機、世界同時不況など難題が山積みである。
▼オバマ氏は選挙期間中から「民主党や無党派層、共和党を含む組閣人事を行うつもり」と言明していた。3日、商務長官にニューメキシコ州のビル・リチャードソン知事を指名。これで、副大統領となるバイデン、国務長官に指名したヒラリー・クリントン上院議員と合わせ指名争いのライバルだった3人を政権に引き入れた。
▼オバマ氏はリンカーン第16代大統領を大変尊敬しており、愛読書のひとつに歴史学者ドリス・グッドウィンによるリンカーンの評伝『政敵が集まった政権(Team of Rivals)』がある。
▼大統領となったリンカーンは、予備選のライバルだった4人をそっくり主要閣僚(国務、財務、司法、陸軍長官)に起用する奇手を用いて、南北戦争という未曾有の国難を切り抜けたのである。
▼オバマ氏はこの「チーム・オブ・ライバルズ」に倣ったようだ。またゲーツ国防長官を留任させるなどオールスター布陣に閣内対立の懸念もあるが、「今は、世界で指導的立場にある米国にとり、21世紀の諸課題に立ち向かうための新たな夜明けの時期にある」と意に介さない。
▼ともすればイエスマンで固めたがる政権や組織は一度参考にするといいかも知れない。(武)

Tuesday, December 02, 2008

元厚生次官宅襲撃事件と裁判員制度

▼「おれがクビになったのは社会が悪いからだ。この国を動かしているのは官僚だ。官僚を何とかしてやろうと、職を失ったころ思った」
▼元厚生次官宅襲撃事件(4面に関連記事)で出頭した小泉毅容疑者(46)の弁である。34年前の「保健所に殺された犬の仇討ち」と主張するなど不可解な部分はいまだ多いが、不遇をかこった自分の社会に対する恨みからであることは間違いないだろう。
▼元厚生次官の次は文部次官が狙われるとインターネットで噂が広がった。29日、ブログに「文部科学省の局長らを一週間以内に順次、自宅で刺殺する」などと書き込んだとして、東京都に住む無職前田記宏容疑者(25)が脅迫容疑で逮捕された。
▼前田容疑者は東大卒業後、職がなく「理想を持って勉強してきたが、教科書の内容と違う現実があるのを知り文科省に詐欺をされたと感じた」などと供述しているという。
▼6月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件(7人死亡、10人負傷)の加藤智大容疑者(25)は「勤務先のリストラ計画や処遇に不満があった。世の中が嫌になった。誰でもよかった」と供述した。
▼これらに共通するのは、社会や体制(官僚)に対する社会的脱落者の恨みだ。社会はこれにどう向き合えばいいのか。
▼そんな折、日本で来年5月より裁判員制度が始まる。最高裁は28日、各地裁の裁判員候補者名簿に載ったことを知らせる通知書を全国の約29万5千人に発送した。
▼有権者から無作為に選ばれた原則6人がプロの裁判官3人と審理するが、対象は殺人、強盗致傷など最高刑が死刑、無期懲役などの重大事件だけである。
▼今の日本の市民社会を否定する「テロ」を、これからは一般市民が裁くことになる。