Thursday, August 14, 2008

米ロ新冷戦勃発

▼平和の祭典である北京オリンピック開会式直前に、グルジアの南オセチア自治州で戦争が始まった。グルジアのサーカシビリ大統領は「ロシア軍はグルジアを侵略した」と非難、米国のニュースを見ていると、いかにも大国ロシアが一方的に軍事介入したかのようである。
▼しかし、停戦合意を破り戦争を始めたのはグルジア軍である。グルジアからの分離独立を主張する親ロシアの南オセチア自治州の州都ツヒンバリ周辺をグルジア軍が攻撃したのが端緒だ。ロシアは平和維持軍が攻撃を受けたため、反撃に出たのが実際だ。
▼南オセチアは92年の国民投票で9割以上が独立を支持して以降、憲法や国会が制定され、大統領もいて事実上独立している。だがグルジアはもちろん、国際社会は認めてこなかった。南オセチアの独立を阻止したいグルジアだが、何故この時期にグルジアは進撃したのか?
▼それは今年2月のセルビアのコソボ自治州の独立宣言だろう。欧米諸国は相次いで承認した。実質的に独立していれば、独立は可能との前例が出来たのだ。
▼グルジアが焦ったのはそこだろう。皮肉なことに「国際秩序の崩壊を招く前例となる」と、コソボの独立に反対したのが南オセチアを支援するロシアである。
▼シェワルナゼ前大統領を追放したサーカシビリ大統領ら現政権は、投資家のジョージ・ソロスなど米国の後ろ盾で成立したいわば米国の「傀儡政権」。今回のグルジア軍の南オセチア進攻も米国の承認のもと行われたと思われる。
▼背後にあるのは資源や経済、地政学的な面も含めた米ロの覇権争いであり、事実上の米ロ代理戦争なのである。米大統領選も絡んでいる可能性もある。そこで、サルコジ仏大統領が事実上の仲介役としてモスクワを訪問することになったわけである。
▼だがいまさら米ロ冷戦の再来でもないだろう。この新冷戦は旧大国の起死回生を狙ったあがきに思える。(武)

Sunday, August 03, 2008

「タクシー・ドライバー」とヘイト・クライム

▼マーティン・スコセッシ監督の「タクシー・ドライバー」という1976年公開の傑作映画がある。ベトナム戦争の帰還兵で不眠症に陥り、マンハッタンのタクシー運転手となった男(ロバート・デ・ニーロ)が主人公だ。
▼男は失恋を経て、腐敗したこの街を浄化してやると次期大統領候補射殺を目論むが失敗する。その代わりでもないが13歳の売春婦(ジュディー・フォスター)を救うべく、ヒモやチンピラ、客を多数射殺する。
▼テネシー州ノックスビルの教会で7月27日、男(58)が銃を乱射し2人が死亡する事件が起きた。警察によれば、男は散弾76発を用意、「大量殺人を目論み、自身も生きて教会を出るつもりはなかったとみられる」という。
▼事件のあった教会はプロテスタントの一派、ユニテリアン派で、人種差別撤廃、女性や同性愛者の権利向上などリベラルな活動で知られていた。警察は「職を得られないいらだちをリベラル派に向けた犯行」と指摘、「憎悪犯罪(ヘイト・クライム)」と見ている。
▼6月8日の7人が死亡した葉原通り魔事件はどうだろう。加藤智大容疑者(25)は恋人や友達が出来ず、また派遣社員としての不満を募らせていた。彼の矛先はゲーム好きの自身ともなじみのある秋葉原に集う一般市民だった。
▼タクシー・ドライバーでは主人公は支配の象徴でもある大統領候補を狙い、次に犯罪人たちを射殺した。だが、ノックスビルの教会や秋葉原で犠牲になった人たちは権力者でも犯罪者でもない。憎悪犯罪というが彼らは方法以前に標的自体が間違っている。池田小事件同様、実際には「弱いもの」を相手にしているに過ぎない。
▼犯罪人たちを射殺した映画のタクシー・ドライバーは、本人の意図とは裏腹に町の「英雄」となる。だが無差別テロに走る過激派と同じく、間違っても加藤容疑者らが英雄になることはない。