Tuesday, January 30, 2007

中東大戦争の予兆

▼ブッシュ大統領は1月10日、イラク派兵を約2万人増やすと同時に、「イランとシリアは、イラクの反米ゲリラへの資金提供や武器供給、ゲリラの軍事訓練をしておりイラク再建を邪魔している。妨害工作を潰すため、戦線を拡大する」という驚くべき演説を行った。
▼ブッシュ政権はこれまで「イランが核兵器を開発している」と主張してきたが、CIAが昨年11月に改めて「イランが核兵器を開発していると考えられる証拠は何もない」とする報告書を発表したため、新たな「口実」を考えたかのようだ。
▼ゲーツ国防長官は「この地域で別の紛争を起こそうとは誰も思っていない」と対イラン武力行使を否定するが、イラク北部のイラン関係施設を米軍が家宅捜索しイラン人を拘束、ペルシャ湾には二隻目の空母派遣、イラン大手国営銀行への金融制裁など次々に圧力をかけ、まるでイランを挑発しているかのようだ。
▼中東のドミノ的民主化を主張していたネオコンが政権から去り、ベーカー元米国務長官らが昨年末、イラク情勢打開のためにイランとの対話を求める報告書を提出したが、政権はこれをまったく無視している。
▼イラクにイスラム教シーア派主導の政権が誕生したことで、シーア派の大国イランが中東全域への影響力を拡大しつつあるとの危機感があるとされるが、真相は石油そのものの資源争奪戦にだけあるのではない。
▼イラク侵攻の裏にあったのは、石油のドル建て決済をイラク・フセイン政権がやめようとしたからである。ここ数年、イランをはじめ世界中のかなりの国がドル建て決済からユーロなどにシフトし始めている。
▼そうなれば、どんなに貿易赤字、財政赤字、対外債務国だろうがドルを刷ってさえいればよかった米国の基軸通貨ドル体制は崩れ、米国は貿易赤字超大国になり国家破産すら考えられる。
▼大統領は23日の一般教書演説でもイラク増派への理解を求めたが、米国がイランと戦争したがっている理由は核問題ではなく、石油でもなく通貨問題なのである。
(CAPITAL07年2月1日号より)

Wednesday, January 10, 2007

500年後のフセイン元大統領

▼7日付ニューヨーク・タイムズが、昨年12月30日に行われたイラクのフセイン元大統領の死刑執行を巡り、イラク政府と米国の間で駆け引きがあったことを伝えた。
▼米国は、イスラム教で最も重要な犠牲祭を控えていたことなどを踏まえ、ハリルザド駐イラク米大使らが処刑を急がないよう重ねて説得。しかし、マリキ政権の「早く身柄を渡せ」との強硬な姿勢に最終的に説得をあきらめ、ライス国務長官に連絡を取って了承されたという。
▼死刑は元大統領暗殺未遂事件が起きた中部ドジャイルで、シーア派住民148人を虐殺した罪に対して行われたもので、裁判の公正さを疑問視し、死刑に反対していた欧州諸国や国際人権団体からは批判が噴出した。
▼処刑の模様はニュースでも放映されたが、執行に立ち会った者が携帯電話で撮影した生々しい処刑現場がインターネットで世界中に流れた。撮影者は逮捕されたが、元大統領が弾圧したシーア派やクルド人が中枢を占めるマリキ政権による「報復的処置」との見方を裏付けるようなものだった。
▼処刑により、公判中だった80年代のクルド人弾圧や、88年の北東部ハラブジャでの化学兵器による住民虐殺、90年のクウェート侵攻などの捜査は打ち切られた。欧米のメディアは歴史の証言者としてフセイン元大統領へのインタビューを切望していたが、米国との蜜月時代もあったフセイン政権の真相は闇に葬られたと言えるだろう。
▼明治天皇を尊敬していたというフセイン元大統領は、「現在どのように評価されようとまったく気にしない。500年後に崇拝されているかどうかだ」とある伝記作家に伝えたという。このようなことを言わせないためにも、死刑は行うべきではなかった。
(Capital07年1月15日号より)

Thursday, January 04, 2007

豚と猪

▼今年は豚年、などというと驚かれると思うが、中国も朝鮮もベトナムも十二支の最後十二番目の動物は猪ではなく豚である。
▼中国語では「猪」とは「豚」のことである。ご存じの通り、「西遊記」の猪八戒はブタだ。中国語ではイノシシを「野猪」である。
▼どうも、十二支が大陸から伝わった時、日本にはイノシシの家畜である豚がまだ存在していなかったらしい。それで猪がイノシシになったようだ。
▼イノシシの語源は「猪(い)の獣(しし)」から。現在でも干支のイノシシを「亥(い)」と言うが、この「い」は古くは「ヰ(ゐ)」で、鳴き声を表した擬声語で「ウィ」と発音していた。つまり、ウィと鳴く獣が猪だ。
▼英語ではWild boarで、Wild pigとも。直訳で野ブタだ。ユーラシア大陸を中心に世界中至る所に分布し、米国にも多少生息する。アニメ「ライオン・キング」のブンバはイボイノシシ。日本にいるのは日本にはニホンイノシシとリュウキュウイノシシ。
▼猪の肉は「牡丹肉」とも言われる。白い脂肪に縁どられた赤い肉を切り分けて皿に盛った状態が牡丹の花のように見えるからだ。獣の肉食がタブーとされた時代も「山鯨(やまくじら)」と称して例外的に食べていた。
▼「薬喰い」の別名もある通り、滋養強壮、万病を防ぐと言われ、そこから無病息災の象徴となった。今では郷土料理として兵庫県の丹波地方や神奈川県の丹沢地方にでも行かなければなかなか食べる機会がない。
▼猪がらみの熟語といえば「猪突猛進」。周囲の人のことや状況を考えずに、一つのことに向かって猛烈な勢いで突き進むこと。必ずしもいい意味であるとは限らないが、猪は「勇気と冒険」を表す動物でもあり、こっちを取りたいところ。(CAPITAL2007年1月1日号より転載)