Saturday, July 28, 2007

ウォールストリートジャーナルの買収劇

▼メディア大手ダウ・ジョーンズ(DJ)は16日、米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)をルパート・マードック氏率いるニューズ・コーポレーションに総額約50億ドルで売却することで暫定合意した。百年以上DJを支配してきたのオーナー、バンクロフト一族は売却を了承するかどうか近く最終決断を下す。
▼一族三十数人のうち高齢のメンバーを中心に身売りへの反対意見が強いという。マードック氏は編集活動への介入で知られ、買収後にDJの報道姿勢が実際に中立を保てるかどうか疑問に思われているからだ。
▼オーストラリア生まれのマードック氏率いるニューズ社は、FOXテレビ、映画会社20世紀フォックス、英紙タイムズなどを傘下に収める巨大メディアグループ。愛国的なイラク戦争報道など「右寄り」で知られ、大統領選に出馬するヒラリー・クリントン上院議員ら民主党候補はFOXの討論会には出ない。
▼ニューヨーク・タイムズは「バンクロフト家にはWSJを発行し続ける道を模索して欲しい。それが無理であればWSJを保護してくれるような安全な買い手を見つけて欲しい」と指摘し、ニューズ社にだけは売却しないよう求めた。
▼マードック氏がWSJに目をつけたのは、ほとんどの新聞のネット版が過去の記事などを除き基本的に無料の中で、WSJは年間99ドルの利用料を徴収、それでも約80万人が契約しているからと言われる。また、DJの経済金融サービスを活用することで経済報道を強化、10月にはDJとWSJが持つコンテンツをフルに活用した経済専門のテレビ局が開局する。
▼インターネットの普及で、新聞の発行部数減少に歯止めがかからない。DJはメディア業界の競争激化によりこのまま単独での生き残りが難しいと判断したようである。
▼ネットの普及と新聞の低調から始まったメディア再編は大手による寡占へと加速しているが、経済面での「偏向報道」めいたことが起こらないことを祈るばかりである。(武)

Thursday, July 12, 2007

バイオエタノールと貧困

▼日本でもバイオエタノールを混ぜたガソリンの発売が始まった。バイオエタノールは、車の燃料としてすでに普及が始まっている米国やブラジル始め、欧州諸国、アジアでは中国、インドが推進している。

▼バイオエタノールはトウモロコシや大麦、サトウキビなどの植物から生産されため、石油と違い枯渇することのない半永久的なエネルギーと言われる。また、燃焼の際に二酸化炭素が放出されるのは石油と同じだが、植物が成長する際に光合成で大気中の二酸化炭素を吸収するため、二酸化炭素の総量は循環して変化しないことから、地球温暖化の防止対策となるエネルギーとされている。
▼だがこれは食物の需給バランスを大きく変えてしまう問題がある。トウモロコシの値段はこの一年で倍になった。またトウモロコシはソフトドリンクの甘味料の原料やシリアルだけでなく、飼料として畜産や養鶏にも使われている。すると牛・豚・鶏肉、ハム、卵などは言うに及ばず、チーズ、牛乳、アイスクリームといった乳製品がその影響を受ける。日本でもハムやソーセージ、マヨネーズなどの値上げが始まっている。
▼メキシコでは昨年、主食のトウモロコシの値上げに抗議して全土でデモが起きた。DCの環境シンクタンク「アースポリシー研究所」のレスター・ブラウン所長は「八億人の自動車所有者と最も貧しい二十億人が、穀物を巡り争う事態になっている」と警告を発する。
▼深刻なのは、世界で最も貧しい人々が住んでいるアフリカのサハラ以南の国々だ。ここに住む2億人の大半は、収入の半分以上を食費に費やしており、穀物価格が上昇すれば、直ちに生きるか死ぬかの問題になる。現在でも、世界では八億五千四百万人が慢性的な飢餓状態にあり、毎日二万四千人が死んでいる。
▼キューバのカストロ国家評議会議長は、食糧を燃料に転化することで「資本主義は南の貧しい人たちの大量の安楽死を企てている」と批判したが、あながち的外れではない。