Wednesday, March 28, 2007

利用された「愛国法」

▼下院司法小委員会は、民主党に近いとみられる米連邦地検検事正8人の解任を司法省に指示したと思われるローブ大統領次席補佐官らの議会宣誓証言を求めて召喚状を出すことを決めた。民主党はローブ氏らの追及に一歩も引かない構えだ。
▼ブッシュ大統領は昨年10月、民主党メンバーによる選挙違反疑惑の捜査に真剣に取り組んでいない地検検事正がいるとの共和党上院議員らの指摘を司法長官に伝達、2カ月後に7人の検事正が解任された(もう一人はそれ以前に解任)。
▼大統領は検事正を含む広範な「政治的任命権」があるとし、政権の承認の下、8人を解任したゴンザレス司法長官の決定は適切だったと強調。当初はブッシュ政権のマイヤース法律顧問が、93人全員の交代を司法省に提案していたことも分かった。
▼米国では司法長官が日本でいう法相と検事総長を兼ねているため、政権と一体ではないかと思われがちだがそうではない。連邦検事の任命には議会の承認で、政権とは一定の独立が保たれているのだ。
▼ところが、9・11のテロ後に制定された「愛国法」で、連邦検事が欠けた場合、大統領が暫定検事を任命できるが、すぐに議会承認がなされない場合、任命した大統領の任期一杯(本来は120日以内)暫定検事が職務を全うできるようになった。
▼一方、CIA工作員名漏えい事件で、チェイニー副大統領の元首席補佐官、ルイス・リビー被告を偽証罪などに問い、有罪の評決を勝ち取ったフィッツジェラルド特別検察官について、司法省が「際だって優秀ではない」と低評価し、政権に「忠誠を示す検事正」と「異を唱える検事正」の間に位置付けていたことが判明した。同氏と同ランクだった二人は後に解任された。
▼CIA工作員名漏えい事件では、ローブ大統領次席補佐官まで追及の手が及びそうであった。解任問題は、愛国法のため後退した民主システムを使っての、フィッツジェラルド氏のような辣腕検事正排除の「陰謀」ではないかと見られている。

Tuesday, March 13, 2007

言い逃れか、恥の上塗りか

▼旧日本軍の従軍慰安婦問題で日本政府に謝罪などを求める米下院の対日決議案の共同提案者が、当初の6人から42人に増えた(12日時点)。リベラル派が多数だが、ダンカン・ハンター前軍事委員長(共和党)や決議案に反対していた親日派のローラバッカー下院議員(共和党)のような保守派も賛成に回っている。
▼日系のホンダ議員(民主党)らが提出した決議案は、当時の日本政府が関与し、「軍の強制売春」があったとして「残酷さと規模において前例がない」と非難。過去に四回提出され、昨年初めて下院外交委員会で可決されたが、日本政府の協力なロビイスト活動もあり、廃案となった。
▼今年は元慰安婦3人による公聴会も開かれ、韓国人元慰安婦の金君子さん(81)は「多い日には40人に強姦(ごうかん)され」、妊娠し中絶を強いられたと証言した。今回の決議案は「人権」と「女性の権利」に力点が置かれ、女性のペロシ下院議長(民主党)が理解を示していることから、本会議で可決される公算が大きい。
▼安倍首相は「決議があったからと言って、我々が謝罪することはない」と断言。従軍慰安婦に対する「おわびと反省の気持ち」を表明した93年の河野官房長官談話を「基本的に継承する」と言いつつ、「決議案は客観的事実に基づいておらず、日本政府のこれまでの対応を踏まえていない」と指摘、政府、自民党で再調査する考えを表明した。
▼これに米国メディアは猛反発。ニューヨークタイムズ紙は「連続的レイプで売春ではなかった」と書き、ロサンゼルスタイムズ紙は天皇による謝罪を提案する社説まで掲載した。
▼首相は11日のNHKの番組で「慰安婦の心の傷は大変な傷。心からおわびしている」と発言したが、ホンダ議員は、歓迎するが公式の謝罪には至っていないと一蹴。首相の主張は、軍が人さらいのように連行する「狭義の強制はなかった」のようだが、経過を見るに「言い逃れ」と思われても仕方ない。間違っても「恥の上塗り」は避けて欲しいものだ。(CAPITAL 07年3月15日号より転載)