Wednesday, November 29, 2006

ネオコンの退場と中東政策の転換

▼イラクのサダム・フセイン元大統領への死刑判決が下され、旧政権中枢を占めていたイスラム教スンニ派によるシーア派へのテロ激化が懸念されていたが、現実のものとなった。バグダッドで23日に起きたシーア派へのテロは犠牲者200人以上を出した。
▼NBCテレビは27日、イラクの現状を「内戦」と表現すると発表。ワシントンポスト紙によると、イラク戦争は同日で3年8カ月と8日となり、太平洋戦争の米軍参戦期間を上回った。米兵の死者は2800人を超えている。
▼中間選挙敗北でイラク政策の転換を迫られたブッシュ大統領は、イラク情勢打開に向けヨルダンやイラクを訪問。チェイニー副大統領もスンニ派大国であるサウジアラビアを訪れた。
▼ヨルダンやイラクのシーア派民兵組織は武器や訓練などでイランの支援を受けているとされる一方、スンニ派武装勢力はシリア経由でイラク入りしている可能性が高い。そんな中、シリアは80年代初頭に断絶したイラクと国交回復した。
▼ベーカー元国務長官ら超党派でつくる「イラク研究グループ」はイラク政策に関する提言作成をめぐり国連のアナン事務総長に協議を申し入れた。米国はこれまでシリアやイランを非難していたが、同グループは、イラクの安定のためにはシリアやイランの協力が必要との考えだとされる。
▼イラク戦争を主導し、大きな発言力を誇ったネオコン(新保守主義)の代表格、リチャード・パール氏は、イラクの泥沼化を招いたのはネオコンではなく「長期化する占領」を続けるブッシュ政権中枢だと反論したが、責任のなすり合いにしか聞こえない。すでに退場を余儀なくされた形だ。
▼ネオコンにとってイラク侵攻は彼らの言う「中東民主化」の第一歩に過ぎなかったはずが一歩目から躓いた。イラク問題を巡り、米国は核問題などで敵対するイランやシリアとの協調へと、大きな転換を迫られている。(CAPITAL2006年12月1日号より転載)

Monday, November 13, 2006

リベラルと保守

▼中間選挙は民主党の大勝利となった。全議席改選の下院(定数435)で民主党が最終的に過半数を上回り、231議席前後を獲得する見通しだ。
▼上院でも民主党は同党系無所属二人を含めて51議席を獲得、下院に続き上院でも多数派を奪回。上下両院の多数派が逆転するのは12年ぶりだ。知事選でも、改選前の共和党28州に対し民主党が22州が、28対22となり逆転した。
▼次期米大統領選出馬が取りざたされるヒラリー・クリントン民主党上院議員はニューヨーク州上院選で圧勝。大統領候補としてはリベラル過ぎるとの懸念は消えたかのようだ。
▼下院では米国史上初の女性議長に、リベラルで知られるナンシー・ペロシ院内総務が就任する見通しとなった。大統領、副大統領に次ぐナンバー3の要職だ。
▼これらを新しい潮流を見る向きは多い。米国は保守からリベラルへ軸を移すのだろうか? しかしヒラリー氏は中道路線になったに過ぎない。テネシー州上院選では黒人下院議員の民主党ハロルド・フォード氏は共和党候補に敗れている。また大統領選への出馬を示唆した民主党の若手黒人政治家、オバマ上院議員の人気が高いのは宗教保守派にも支持者がいることからと言われる。
▼中間選挙と同時に実施された全米各州の住民投票を見ると、少なくとも7つの州で同性婚を禁止する州憲法改正が可決されるなど、民主党が躍進した議会選挙とは裏腹に、保守化の潮流が浮き彫りとなった。アリゾナ州では、英語を公用語とし、非英語圏からの移民に対する英語以外の語学教育を制限する事実上の反移民法案を承認した。
▼今回、共和党はキリスト教保守派の取り込みに失敗したとされている。米国民は泥沼化したイラク戦争にノーを突きつけたのであってリベラルに大きく軸足が動いたと見るのは時期尚早のようだ。(CAPITAL2006年11月15日号より転載)