▼「『日本人は野蛮』というメッセージになっており、残念」。クロマグロが規制対象として上がったドーハでのワシントン条約締約国会議開催を前に、赤松広隆農相の言葉だ。
▼日本の調査捕鯨船団の監視船に侵入した反捕鯨団体「シー・シェパード」のメンバー (44)を艦船侵入容疑で逮捕の事態が発生、 和歌山県太地町のイルカ漁を批判した米映画「ザ・コーヴ」のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞などを一連の出来事として捉え、発言したものだ。
▼オーストラリアはじめ捕鯨反対国は多いが、アラスカなどの北方先住民による捕鯨は「原住民生存捕鯨」として国際捕鯨委員会(IWC)でも認められている。イルカは鯨類に分類されるが、IWCの管轄外。「ザ・コーヴ」でイルカ漁を隠し撮りされた太地町は古式捕鯨発祥の地で、「ジャパニーズ・マフィア」とまで言われた町民からは「(受賞に)怒りを覚える」といった反発の声が上がった。
▼確かに入り江が血に染まるシーンはショッキングだ。デンマークのあるクジラ漁師は「分業が進み、牛や豚の処理現場を一般に見ることはないが、漁はそうでもないから不利」と言う。
▼「イルカやクジラは知能が高い」ことを反対理由のひとつにあげる声がある。では知能の低い人間は殺してもいいのか。障害者抹殺を図ったナチスの「優生思想」を彷彿とさせる。
▼大西洋・地中海のクロマグロはピークの年間30万トンから8万トン弱まで激減しており、乱獲が原因であることに議論の余地はない。また、イルカ(クジラ)やマグロに高濃度の水銀があれば問題だ。
▼とはいえ、大企業による畜産業の恐るべき実態を描いた「フード・インク」はアカデミー賞を逃した。反捕鯨には自然保護団体だけでなく、漁業とは無関係の企業もスポンサーについている。自然保護や文化問題はあるにせよ、漁民には国以外頼るものがない。