▼ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の上映が危機に陥っている。日本で活動する中国人映画監督、李纓さん(44)が、靖国神社をめぐる人々の姿を、十年をかけ撮影。釜山国際映画祭で上映されたほか、三月の香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなど前評判が高かった。
▼これに対し、稲田朋美参院議員(自民)ら一部国会議員が事前試写会を要求、三月十二日に国会議員八十人が参加した試写会が開かれた。稲田議員らは「検閲」ではなく映画製作費のうち七百五十万円を文化庁が助成したことを問題にしたが、文化庁は「助成金支出は妥当」と回答した。
▼試写会を見た新右翼の鈴木邦男は「これは『愛日映画』だ」としたが、週刊新潮が「反日的」と論評すると、上映予定の映画館に対し右翼団体の街宣車による抗議活動や電話による公開中止などの圧力があったという。このため、4月公開を予定していた映画館すべてが「周辺の商業施設に迷惑をかけることになる」として上映を中止ないし延期。渡海文部科学大臣は「あってはならないこと。非常に残念」と発言。
▼表現の自由が危惧される中、大阪の「第七芸術劇場」など東京を含む北海道から沖縄まで全国二十一の映画館で、五月以降に上映されることになった。
▼これで上映かと思いきや、有村治子参院議員(自民)が事情を聴きにいったところ、中心的出演者で刀匠の刈谷直治さん夫妻が「出演シーンの削除を希望している」という。さらに靖国神社が、境内での撮影許可の手続きが守られず、事実を誤認させるような映像が含まれているとして映像の一部削除を求める通知をした。
▼李纓監督は、戦争が日本人の心に残した混乱とその背景を描こうとしたというが、まさしく靖国を巡っては日本人はひどく混乱するようだ。(武)