Thursday, August 30, 2007

歴史の教訓

▼—ある晴れた朝、何千人もの米国人が奇襲で殺され、世界規模の戦争へと駆り立てられた。我々を攻撃したその敵は自由を軽蔑し、米国や西側諸国が自分たちを蔑んでいると信じ、我々への怒りを心に抱き、自爆攻撃に走った——
▼誰しもがアルカイダと9・11テロのことだと思うだろう。しかしこれは1940年代の軍国日本と真珠湾攻撃のことだという。22日、カンザスシティーで開かれた在郷軍人会年次総会でのブッシュ大統領の演説の冒頭だ。
▼「狂信的な神道」の存在などから「日本に民主主義は本質的に相容れないと言う者もいた」とまで語った。大統領は大正デモクラシーのことを勉強していないようだ。
▼そして、「しかし今日、日本は世界でも偉大な自由社会の一つとなった」と述べ、「我々は中東でも同じことができる」と結んだ。要は、戦前の日本をアルカイダと同じようなものと見なし、日本を打ち負かしてよりよい国にしたように、米軍は勝利するまでイラクからは撤退すべきではないという結論である。
▼朝鮮戦争やベトナム戦争の意義にも言及。「ベトナムからの米国の撤退によって、何百万人もの無実の市民が苦しみ—」と語った。退役軍人の前とはいえ、ソ連もナチスも大日本帝国も、ベトナムもアルカイダも、また無差別テロも民間施設を避けた奇襲も、神道もイスラム教もほとんど一緒くただった。
▼さすがにベトナムは、外務省報道官が翌日「(戦争は)民衆にとって正義の戦いだった」と述べ不快感を表明した。日本は、米下院の「従軍慰安婦」決議に反対しワシントンポスト紙に意見広告まで出した人たちも含めほとんど反応がなかった。
▼歴史から教訓を学ぶことは大切だが、歴史を歪曲化の上に単純化して、賢明な判断が出来るとはとても思えない。
(CAPITAL#42より転載)

Sunday, August 12, 2007

参院選と靖国参拝

▼昨年の八月十五日は小泉首相(当時)が靖国神社を参拝し、大騒ぎとなったが、今年は安倍首相を筆頭に十六人の閣僚全員が見送るらしい。
▼一九五〇年代半ば以降、終戦記念日に閣僚が大量参拝するようになったが、一人も参拝しないというのは初めてではないかとみられる。
▼塩崎恭久官房長官は「私の信条でいつも決めていること」、伊吹文明文部科学相は「宗務行政の所管大臣として、公平を期すため」、溝手顕正防災担当相は「行ったことがない」。麻生太郎外相、高市早苗沖縄北方担当相、柳沢伯夫厚生労働相らは外遊など公務で参拝できないとした。菅義偉総務相、長勢甚遠法相、高市氏らは既に参拝済みだからという。
▼そんな中、山本有二金融担当相は「公的立場の参拝は歴史的経緯からアジアの政治的安定を害する」とはっきりと指摘、公明党の冬柴鉄三国土交通相は「宗旨が違うから」としつつ、「信教の自由だが、枢要な地位にある人には隣人の気持ちを配慮する気持ちは必要」と述べている。 
▼下院で「慰安婦決議」が可決したばかりのワシントンを訪れた小池百合子防衛相も参拝しない意向を表明。中国、韓国との関係改善ばかりでなく米国の顔色も伺ったのか。
▼参院選での自民敗北の原因として「年金問題」や閣僚の失言・不祥事がよく挙げられるが、「憲法改正」や「戦後レジュームからの脱却」を旗印にした安倍政権に国民は「ノー」と応えた、少なくとも憲法改正などは安倍政権下ではやって欲しくないと答えたのが今回の参院選ではないだろうか。
▼安倍首相は祖父・岸信介を尊敬しているといわれるが、岸信介とは、戦前は満州に進出し対米開戦に同意、戦後は日米安保を強行採決した「昭和の妖怪」であることを国民の多くが思い出したのか。参院選の結果は靖国や慰安婦問題とも関係があったのかも知れない。(武)
(追記:高市氏だけは8月15日、靖国参拝した)